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月下香の蛇

第2章 演練と狐


小狐丸の腕で一晩過ごした私は、
痛む体を引きずって早朝にシャワーを浴びた。
小狐丸は大層名残惜しそうな瞳をしていたが、
行動は素直に私の言う事を聞いていた。
シャワーから出てくると
小狐丸は私の髪を乾かし、櫛で梳いた。
右手の甲に出来てしまった傷についても
随分と丁寧に手当てをしてくれた。
どうやら昨晩は
血の匂いには気が付いていたらしいが
私が手の甲に傷をつけた事にまで気が回らなかった、と
手当をしながらシオシオと小狐丸は謝り続けた。

私には理解できないが、
彼の中の野生のスイッチとやらが入ってしまったらしい。
「ぬしさまに怪我をさせるつもりは…」
と、何度も口にしていたあたり
野生のスイッチとやらは厄介なモノのようだ。


朝になり皆が起きだして、朝食を済ませて尚
小狐丸は私の部屋に居座った。
私が仕事をしていようがお構いなしで。
最初は散らかしてしまった本を片付けていたのだが
それを終えると、
ただひたすらに仕事をする私を眺めていた。
何が楽しいのか分からなかったが、
小狐丸の中で何かが満たされたらしく
日が暮れる頃には上機嫌になっていた。

仕事をする主の背中を見つめて桜を散らす刀剣男士など
私は知らない。

夕飯を終えて夜になると小狐丸は自室へと帰って行った。
流石に二晩連続で私の元に居座る事はしなかった。

ようやくゆっくりと休めると自室へ戻ろうとすれば
廊下に三日月が。
「小狐丸の機嫌が大層良くてな。
俺も主の元へ参ったのだが、」
ニコニコと此方も機嫌が良さそうに、
だが、何かを孕んだ言い方で近寄ってくる。
「悪いけど、今晩はもう店仕舞いよ」
右手で払うような仕草をすれば
「おや、これも狐に噛まれたか?」
私が噛んだ傷跡を見つけて、手を取られた。
「狐よりも厄介なモノに噛まれたのよ」
取られた手を引き戻しながら言えば
「そうか、それは困ったものだな」
三日月はいつもの笑顔でそう言うと
「では、また来る」
背中を向けて歩き出した。

ようやく休める、と長い息を吐き出して
私が自分の部屋で布団に横になった時には
時計の針は天辺を指していた。
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