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月下香の蛇

第1章 始まりと夜


本のページを捲る手を止める。
ふと、思い出していた。
私がこの本丸へ来た日の事、初めての顕現、
陸奥守吉行との出会い。
少しずつ人数が増えてきているこの本丸の始まり。

「主、」
蝋燭の火が揺れるのをぼんやりと眺めていたら声をかけられた。
「どうしたの?陸奥守」
「まだ起きちゅうか?」
夜の遅い時間、
私の部屋は本丸の離れにあるから
多少声を出しても問題は無いのだけれど、
必要以上にかすれた小声で話す陸奥守。
「眠れないのね」
「バレたか」
左手で頭を掻きながら、彼は私の部屋へと入ってきた。
「図星」
「主にゃあ敵わん」
そわそわと落ち着かない様子は
餌を目の前にして待たされている犬のよう。
「どうぞ」
手に持っていた本を閉じて、脇に置くと
陸奥守は私の膝へ頭を乗せた。
髪を梳くように撫でていると
「こがな姿、他のやつにゃ見せられん」
私を抱くように腕を回して顔をうずめながら陸奥守は
そう言うのだった。

「甘えたなのは貴方だけじゃないけれど、」
「わしだけじゃのうても、格好がつかぇい」
「そう」

陸奥守の髪は少し硬い。
男の姿をしているのだから、女の姿をしている私とは
やはり違うのだ。

「…、何を考えちゅう?」
「貴方の事」
「しょうまっこと?」
「さぁ、嘘かもしれない」
少し意地の悪い返事をすれば
埋めていた顔を上げて、不安そうに私を見る瞳。
「なぁに?」
「は意地悪じゃ」
「そう」
「でも、こじゃんと優しい」

「、」
陸奥守の瞳の奥で炎が揺れている。
蝋燭の炎が映る瞳は私を映していて、
私の瞳はいつの間にか陸奥守越しに天井を映していた。

そうっと私の体に触れるのはいつもの事。
まるで硝子細工を扱うかのように、優しい手つきで。
一つ間違えたら粉々に壊れてしまうような
それを恐れるかのような、そんな手つき。
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