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月下香の蛇

第2章 演練と狐


「興味が無いから」
「興味?」
「興味の無い者にどの様に思われようとも知った事ではないわ」
「しかし、あの男はぬしさまに触れました」
「だから?」
「それも、興味がないと仰るのですか」
「そうね」
冷たい言い方かもしれないが、事実だ。
つまらない嘘を吐く場面でもない。
小狐丸にとっては大層不服な返事なのかもしれないが
彼のご機嫌を取るつもりは無い。
その必要もないだろうけれど。

私を射抜かんとする小狐丸の瞳は鋭い。
流石、と言ってしまえばそれまでだが、
野生と自称するだけの事はある。
「ぬしさまは、何をされても何とも思わぬのですか?」
「相手にもよるわ。
私にだって嫌いな者くらい居るわよ」
「あの男はそうではなかった、と」
「天秤にかけるまでもない雑魚って事」
小狐丸との問答に飽きた私は再び机に向かう。
わざわざ膝を突き合わせてする話には思えない。

「…ぬしさまは、お好きな方が居るのですか?」
「何の事?」
私の行動に会話が途切れたと思ったら
何の脈絡もなく小狐丸が問うた。
「嫌いな者が居るという事は好きな者も居る、という事です」
「そうかもしれないわね」
「例えば、陸奥守吉行」
「?」
「彼の男はぬしさまを容易に腕に抱く事ができる」
「それは貴方の勘違いね」
「そうでしょうか?
共に夜を過ごしておいででしょう?何度も」
「だから?」
「ぬしさまの特別なのではないか、と」
「特別ねぇ…」
机に肘をつき、頬杖をついた私の吐き出した息に
小狐丸は探るような目をより鋭くした。
「馬鹿なのは嫌い。でも、小賢しいのも嫌いよ」
此方も横目で小狐丸を射る様に見つめて
会話を終わらせる。
左手で払うような仕草をして、
小狐丸に部屋から出るように促した。

彼は、湯飲みをお盆の上に乗せると
形ばかりの礼をして、不服そうに部屋から出て行った。
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