第12章 What's your name?
それにしても随分と柔らかそうなタオルだ。
風呂上がりに顔をうずめたら格別に気持ち良いだろう、そう思わせるくらいフンワリとしている。
「で、だ。さっさと着替えて、買ってきてくれ」
「あぁ、もうそんな時間?」
「そっ、俺カヌレと焼き立てのチョコチップマフィン。と、いつものな」
肩にかけただけのタオルをなびかせて少し早足でイチはその場を離れていった。
点々と続く水跡をみて、果たしてあのタオルは役目を全うできるのかなんて要らない心配をしつつ、あれならヘンゼルとグレーテルのパン屑と同じ位アテにならない目印になれるなと想像してしまった。
「いつものって何なんですか?」
「ん?あぁ、牛乳だよ。俺の唯一のルーティーンでな。毎日飲むんだわ」
特別に好きなわけじゃない、好きな映画の真似をしてたら習慣になったんだと筋肉隆々の腕を組む。
ジャンル問わず映画を観るのが趣味なんだと嬉しそうに話す顔に無邪気さが混じってみえた。
「それはそうと、出久は何でまたこんな所にいんだ?」
「あ、目が覚めちゃって散歩してたんです。
それでいい匂いがしてるなってそこの木を見に来たら、たまたまイチに会って」
「あぁ、なるほど。通りでお前さんの頭がお花畑なわけだ」
緑谷に伸ばされた手は、髪に絡んでいたオレンジ色の小花をヒョイと摘んだ。
どうやらイチがフェンスにしがみついた際に舞った花が、くせのある髪質に知らぬ間に絡み付いていたようだ。
それを聞いて何度か振り払うと、地面にハラハラと花が落ちてくる。
「あの、取れましたか?」
「うーん、ほぼな。ほら」
手招きされて再度頭に手が伸ばされた。
幾つか奥に潜り込んでしまったのか、今度は両手で髪をかき分けられる。
「ほら、取れたぞ」
「あ、ありが……(んっ…!!?)」