第11章 猫とバタートースト
「!?何これ凄ーい!!」
「それを掌で潰してみてくだい」
――パンッ
「――ッ!!!?」
「……三奈ちゃん?」
「どうしたのかしら?何だかとっても幸せそうな顔をしてるみたいだけど?」
先程とは違い柔らかな表情を浮かべる芦戸。
緑谷が癒心を見ると視線がぶつかる。「心配しないで」と、かぶっていない帽子を上げるような仕草をした。
「僕の個性は「セラピー」
さっきの丸いのは「香実(かじつ)」って呼んでいます。分かりやすく言えば匂い玉ですね」
「匂い?でも匂いなんて……」
「この香りは彼女の為に実った香りなんです。
猫にマタタビみたいなもので、周りの人には効力はありません」
「自分の為だけの香り……素敵な個性ですわ」
特別感のある言葉に八百万を筆頭に女子の顔が恍惚とした表情に変わる。
葉隠に至っては表情が見えない分、ジャージの動きでウキウキしているのが丸わかりだ。
「心の底にある感情を元に、その時その人の心が1番望んでいる香りの香実を実らせているんです。
それだけに香りは感情を左右しやすい。
彼女の様子をみると、きっと元気になる為の香りでしょうね。
後は僕自身が嗅いだ事のある香りを出せるくらいで。
例えばこの香り(カモミール)は不安を緩和して安心感を与えてくれます」
〰〰❀✿✾
癒心が手をこすり合わせると、白い小さな花がブーケみたく咲き乱れ弾ける。
同時に心地よい香りが鼻孔を霞めていくと、思わず目を閉じてしまう程に、何処か強張っていた肩の力が抜ける。
「ふぁ〜いい香りやぁ……(なんだろう、お父ちゃんとお母ちゃんの事思い出しちゃうな)」
「イレイザーヘッドに用事があったのは本当ですけど、皆さんの心配するような事はありません。
だから安心して授業頑張ってください」