第11章 猫とバタートースト
「……お騒がせしてすみませんでした。皆もゴメン」
シュンとする芦戸の頭の触覚は下がった。
余程焦ったのか女子と近くに居た緑谷だけを連れてとりあえず来たようだ。
自身を慰める葉隠やお茶子に笑ってみせるが何時も元気なぶん、その姿は余計に気落ちして見える。
立て続けに起こる敵の襲撃に目まぐるしく動く世の中。
危険と隣り合わせにあった日々は、生徒達に確実に現実を教え続けた。
溢れそうなギリギリのラインを常にヒーローは立つ事になるのだと。
状況を把握
あり得ない事だ
相澤先生は大丈夫
しかしこれ以上日常が変わる事に、居てもたってもいられない。
それが表に出て連鎖した結果だった。
そう、ただ不安なのだ。
「落ち込むことないさ。相澤くんは照れ屋なのさ★」
しばしやり取りを傍観していた根津が含みのある言い方をすると、相澤は少しだけバツの悪そうな表情になった。
「どうやら、我々(警察)も混乱させてしまったようだね。
そうだ、癒心(ゆごころ)巡査、ちょっと来てくれる?」
更にその様子を傍観していた塚内は待機する一人の警官を呼び込んだ。
栗毛の少しカールした髪。
一目みただけで柔らかい雰囲気が感じられる長身な青年は、お巡りさんと呼ぶほうが似合いそうな印象だった。
「最近うちに来た癒心巡査、宜しくね。
基本は交番勤務だけど、特殊治療班でもあるんだ。(災害など緊急時において個性を使った治療が許可される)
被害にあった人達、ヒーローや警官の出動前の心のケアなんかもしてくれる。
でさ、この子達に【例のヤツ】やったげて欲しいんだ」
「承知しました」
癒心と呼ばれた警官は軽く会釈し、さっと緑谷達を見渡すと制帽を脇に抱えその長身を屈めると、芦戸を前に手を差し出した。
「こう掌を上にして両手を合わせて前に出してもらえるますか?」
「えっ?こ、こうですか?」
素直に応じる芦戸の掌の中心を人差し指と中指で数秒軽く押し始める。
何か始まるのか?
芦戸を中心に周りの視線はその動向を見守った。
「さぁ、芽が出て」
「へっ?」
「膨らんで、花が咲いて、そして君の為に実が実る」
ゆっくりした口調と共に癒心が指を離すと言葉通り薄ピンクの花が咲き、芦戸の掌には薄ピンク色の小さな丸い実が転がった。