第10章 追熟の世代
23:10
「――でね!勝己がガブってアイスたべちゃったの」
「そうか……」
「ショートなにアイスが好き?」
「…小豆、か抹茶」
「まちゃ?」
「緑色のだ」
「へぇ〜……よーし、3分」
―――フッ
「大丈夫?」
昼間より過ごしやすいとは言い難い、ジメジメした夜。
イチを背負ったまま屈むと、轟は呼吸をゆっくり整えた。
体勢を立て直し手を離しても降りる気が無いのか、落ちない様にイチは轟の腰と首に器用に足と手を絡ませていた。
…まぁいいかと、火照る体を個性で軽く涼ませると、気持ちいいのか背中のイチは嬉しそうに擦り付いていた。
(……何かこういう動物の親子いたな)
イチを背負ってランニング。
体力Upメンバーのメニューだが、コレがとんでもなく辛いらしい(青山曰く酸欠必至)
成り行きでやる事にしたが、徐々にレベル上げするメニューを短縮したのが仇となった様だ。
数分前、寮に戻ろうとした所を5人と別れたイチに見つかり飛びつかれ、今に至る。
邪険にする事もなく成されるがままなのは、ただ抵抗するのが面倒なのか何なのか。
思った事と言えば、多少動きにくいと感じたぐらいだった。
「ショートは基礎が出来てるね」
「そうか?」
「うん、2クラス合わせても1番。良いセンセイだね、エンデヴァー」
突然でた名前に轟の顔は強張った。
「……」
「ちがうの?」
「……いや、違わねぇ」
6人家族、4人兄姉の末っ子。
末っ子は甘えん坊だとか、我がままだと言われがちだが、弟妹に対する子どもならではの嫉妬が生み出した印象だろう。
No.2ヒーロー【エンデヴァー】は、No.1ヒーローになるという、自分の夢を子供達に託した。
「パバは小さい頃、野球選手になりたかった」なんてもんじゃ無い。
【ソレ】は自分の欲のみを押し付ける最悪な夢だった。
『お前は最高傑作だ』
5歳から始まった厳しい特訓は、想像出来る限りの地獄のようだった。
泣いても吐いても終わらない日々。
その頃から窓の外で楽しそうに遊ぶ兄姉とは、顔を合わせる事すら少なくなり母は心を病んでいった。
(良い……か)
左目が疼いた気がした。
無意識に手を添えると、それと同時に悲しそうな母の顔が脳裏を霞めた。