第10章 追熟の世代
「出―――久っ!」
「うひっあぁ!」
突然の衝撃を受けて、緑谷は素っ頓狂な声をあげた。
これでもかと脈を打つ心臓を抑えて、自分の腰に抱きつくイチを、そっと離すと一呼吸置いた。
「イ…イチ、面白がってるだろ」
「バレた?だって出久面白いんだもん」
困った顔をする緑谷とは対照に、イチが悪戯に笑うので、今日だけで何回この顔されたかな…と思わず右頬を掻いた。
「切島君の方は終わったの?」
「うん。で、見てたけどコレ何?」
壁一面に広がる装置を見上げながら、緑谷に尋ねる。
足元はフカフカした厚手のマットで、寝転んだら気持ち良さそうだ。
「ボルダリングだよ。体幹鍛えたらって言ってたし良いかなって」
「確かに良さそうだね」
「難易度が高いから、なかなかクリアできないって有名なんだ。実は今の面が難しくて。リセットするからせっかくだし、イチもやってみる?」
「んじゃあ、やろっかな。あ、今のままで良いよ」
通称【雄英の壁】(ボルダリング)は一味違った趣向が凝らされている。
その1、個性禁止(異型は仕方無し)
あくまでトレーニングなので、純粋な下地アップの為の造りになっている
その2、強制時間(長居し過ぎると足場が暴れる)
その3、リアルなシチュエーション(初級は一般の物と同じだが、岩場から雑居ビル、街中など、ヤマカシ的な)
その4、お邪魔虫(ゴールは様々。要救助者の元までの間えげつない位邪魔されるよ)
上鳴曰く、結構な鬼畜仕様になっている為マジでしんどいらしい(ボルダリングって女子にモテそう!ってなめてると泣きを見るよ!)
――― よくぞ!!(CLEAR)
「……個性使ってないよね?」
「うん?コレ面白いね!っ、と」
イチはスルスルと登って下がって避けて行くと、緑谷が苦戦していた面を、あっという間にクリアしてみせた。
「スゴイや。でもそんなあっさりクリアされちゃうと、何か自信無くなっちゃうな」
「登るの得意なんだ。でも、しょうがないよ、コレ結構普通の人には辛いと思うよ」
「え、でもイチだって個性使ってないよね?」
「うん、でも違う」
「?」
「えっとね、そういう種類なんだ」