第10章 追熟の世代
イチが不思議そうな顔をして聞き返すので、切島は戸惑った。
何故これをするのか分からない。
何故これをしてはいけないのか?そう親に尋ねる子供に見えた。
こんな時、自分の親はどう答えていたんだろうか。
そんな考えが切島の脳内をよぎった。
「…何でって、また難しいな。
ただ困ってたり助けてって言ってる奴が居たら、ヒーローじゃなくても救けてやりてぇって…俺は思うぜ?」
【ヒーロー(救ける)】って何?
「そうなんだ?」
イチはどんな答えを求めているのだろう。
自分はそれを知る由もない。
「……俺だけの答えじゃ足りないと思うぜ?」
イチは再び考える仕草をすると「そりゃそうだ」とだけ応えた。
――― ジリリリリリリ…
「おっ、交代の時間」
仕掛けておいた携帯のタイマーが時間を知らせる。
次は緑谷の番。
携帯の時計は21時近くなっていた。
「よーし、じゃあ、出久ん所行くね。まだ鋭児郎やるの?」
「おぅ、まだ少しやってくわ、付き合ってくれてありがとな」
「ううん、楽しかったよ。何かあったら、すぐそこ居るから言ってね」
「分かった」
手を振るイチに手を振り返すと、イチは緑谷の元へとかけて行った。
訓練の合間に他愛のない会話しかしなかったからこそ、イチの口から溢れる言葉が、やけに興味深かく感じられる。
深く考えた事が無かった。
いや、考えるまで至らなかった事を改めて聞かれると、人は少なからず答えに詰まるんだと切島は初めて知った。
この先も明確な答えは出ないだろう。
誰かを救ける事で、自分(存在意義)を満たす。
回線を辿ればヒーロー=名声=偽善者のそんな世の中。
「じゃあ……何て答えてやればいいんだよ?」
それすら考えるのが難しい。
そんなモヤモヤは胸の真ん中にゆっくりと堕ちて薄く薄く広がった。