第9章 花いちもんめはしたくない
拳籐はイチの頭を撫でると物間を見てきてくれと頼んだ。
物間の方に行ったのを確認すると、拳籐は2人に体を向き直して話を再開した。
「多分だけど爆豪ってイチと今日、出掛けたでしょ?」
「え?確かに出掛けたけど……」
「結構、急に連れてったし連れて行かれたし、つーかなんで知ってんだ?」
「マジか……あー、うん。
実はさ、物間が【たまたま】出てく2人見たらしくてさ。
今まではイチとウィルさん、授業終わったら居なくなってただろ?
最初は私も冗談だろうと思って聞いてたんだけどさ、どーしてもそうだって言って、物間ずっと校門見張ってたんだよね」
何でそんな事を?と、困惑する2人をそのままに拳籐は、後ろにチラリと目をやった。
緑谷と切島がその視線を追うと、その先に見えたのはイチと楽しそうに戯れる物間の姿だった。
「そういう事だ」
拳籐は視線を、戻すと簡潔にまとめあげた。
そしてそんな拳籐を緑谷と切島は、更に困惑した顔で見返した。
「あ、あああんな顔した物間君って初めて見たかも……」
「アイツ嫌味な顔だけじゃねぇんだな……」
「一応アイツも人間だからな切島。
見ての通り物間の奴、イチの事気に入ったみたいでさ。
だからイチが何時も居ない時間に居て、まさかの爆豪とどっか行くと思ってないから妬けたんだろうね」
「何時もクールな物間君が意外だなぁ」
「イチのコミュニケーションスキルが、すげぇの分かってたけど何かあったのか?」
「うーん、私も詳しくは分かんないんけど……オリエンテーションの次の日からかな、やっぱ」
少し言いにくそうな表情で拳藤は続ける。
「【何時もA組に美味しい所を持っていかれる】
A組を責めるつもりはないんだ。
ただね、少なからずB組はモヤモヤしてたのよ。
おまけに今回も現場に居なかったから、2人への不信感を拭いきれなかったしね。
そんでそんな空気を察したのかウィルさんが、B組だったらどうするかやろうって言い出してさ。
まあ2人が敵で、街中で人質を救出しろっていう設定だけど。
初めは、正体知ってんだから意味なくない?って思ってたけど、いやー2人共怖かったよ。
鉄哲なんかボコボコにされちゃってさ」