第7章 イカれた帽子は兎と歌う
「げっ、クソバ……」
――― スパアァン
苦虫を噛み潰した様な声があがると同時に爆豪の頭は勢いよくお辞儀する形になった。
声の主は、爆豪の母親である爆豪光己であった。
個性グリセリン。その効果なのかその肌は年齢を感じさせず、驚くほど綺麗である。
口は少々悪いが、息子思いの優しい母親で、見た目は「勝己君は、お母さん似だね」と、昔から言われる位に爆豪と似ていた。
親子のコミュニケーションの1種なのか、激しい言葉のやり取りはご愛嬌。
「いやね、勝さんが今日外回りでこの付近に居るって言ってて、じゃあ食事しましょうって私も出て来たのよ。
だから早めに来てショッピングしようと思って歩いてたら、「爆豪がいる」とか「爆豪が弟連れてアイス食べてる」とか聞こえてくるじゃない?
アタシもう1人産んだかしらと思って、ここで待ってみたのよ」
そう言って笑う母を前に、爆豪は白旗状態。
イチはというと、いつの間にか手を離し、後ろから爆豪の背中に抱きつくと、光己を伺う素振りを見せていた。
「俺の母親だから警戒しなくていい」と、爆豪が教えても離れようとしない。
その様子を見て、光己はイチの目線まで屈むと自己紹介し始めた。
「こんばんは。
私ね、勝己のママの光己って言うの
貴方のお名前は?」
じっと自分を見つめる光己に応えるように見つめ返すと小さく「イチ」と返した。
「イチちゃんか。可愛いお名前ね。
やだわ、弟だなんて、可愛い子じゃないよ勝己」
光己はそう言って姿勢を正すと、爆豪に笑いかけた。
「あ?何言ってんだよクソババア、コイツ男だぞ」
「あら、そうなの?てっきり女の子だと思っちゃったわ。ごめんなさいね、イチくん。
……でもぉ、可愛いからイチちゃんでいいかしら?」
光己の提案に、イチはコクンと頷いた。
「せっかくだし少しお話しない?」
光己がベンチを指差すと、爆豪は自分を見上げるイチを見て「……少しだけな」と返した。
飲み物を買って来るよう光己に言われ、爆豪はその場を離れた。
戻るとイチはすっかり光己に慣れたのか、普段と変わらず楽しそうに話していた。