第7章 イカれた帽子は兎と歌う
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2段のアイスを嬉しそうに頬張るイチの左手は、変わらず爆豪と繋いだままだった。
そんな状態を、嫌がる素振りも見せず、離すこともなく爆豪は淡々と歩いた。
爆豪の肩よりも背の低いイチは、傍から見たら兄弟に見えるらしい。
相変わらず視線は刺さるが、先程とは様子が違う様だ。
もう不思議と耳に入っても煩わしさは、感じなかった。
「見てー。手繋いでる可愛い〜」
「……弟なのかな?でもあんま顔似てなくない?」
「てゆーか、あの子めっちゃ美形じゃない?外人?」
「……意外と世話好きとかウケるんだけど」
「えー、イメージ崩れるー」
世間なんてこんなものだ。
「はい」
ぼんやりしていたら目の前には最後の1段になったバニラアイスがあった。
右に目をやると、体をこちらに向けたイチが右手を伸ばしていた。
そういえば、3段にすると意気込んでいたのに、アイスは2段だ。
「ホントは3段にしようと思ったけど、ジュース買ったから2段。ジュースないから、はい。1個ずつね」
あの溢したジュースは、自分に買ってきたものだったのか。
その事実にむず痒さを感じさせられる。
「……お前食えよ。楽しみにしてたろ」
イチは爆豪の顔を見て少しキョトンとすると、眉間にシワを寄せた。
「……優しい勝己
……変」
―――プチッ
「ッんだと、クソガキ!貸せや喰ったるわ!」
「あぁっ、やっぱ1口食べたっ…あぁっ……」
やっぱりひと口。
願いは叶わず、イチの手ごと爆豪に引き寄せられたアイスは、コーンしか残らなかった。
口中に甘さが広がる。
シンプルな分こだわっているのか、専門店だけあってコンビニなどで買うバニラアイスより香りも味も濃かった。あの店が流行るのも分かる気がするが、でもやっぱり甘い物より辛い物が好きだ。
横を見れば「……別に勝己のだし」と、手に残ったコーンを、イチは悲しそうに見つめてから齧っていた。
そんな姿を見て爆豪は「また買ってやる」と、どこかスッキリした顔で言うのだった。
パアァと効果音が似合う表情のイチがはしゃぎだす前に歩きだすと、前方から聞き慣れた声が聞こえて再度足を止めた。
「あら、やっぱ勝己じゃない!」