第7章 イカれた帽子は兎と歌う
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街は仕事帰りのサラリーマンやOL、夏休み中の若者などでごった返していた。
流行りの店もあるがちょっとした観光名所になっている雄英高校を、ついでに見ていこうとする人で日々賑わっているのだった。
そのため雄英の生徒は、注目される。
特にヒーロー科は体育祭で顔がしられ、更に目立つ。
雄英への敵の侵入。
加えて先日あった、大々的な敵との戦い。
それの引き金になった生徒。
爆豪勝己は今やそこら辺の有名人よりも、有名だった。
「君あれでしょ!ユーエーの爆豪君!」
「ホントだ〜!やだ〜結構イケメンじゃん!目つきヤバ。ねっねっ、写メ撮ろーよぉ〜」
「ほらほら〜イエーイ♪」
3人の派手な格好をした女が、爆豪を中心に勝手に写メを撮って去っていく。
彼の素行の悪さは、体育祭で広く認知されていた。
それもあってか、見かけても話しかけてくる者は少ないのだが、稀に臆することなく不躾に寄ってくる輩はいる。
近いからと選んだ店は、若い女子供で溢れていた。
入ってすぐ自分の分はいらないと告げ、不満顔なイチを店内に残して、爆豪は外で待つことにしたのだった。
携帯を弄って待っていると、爆豪に気づいた通行人は展示物でも見るように、前を通り過ぎていった。
「……ほら、あのTVで……」
「誘拐……アイツが……」
「やっぱ態度…悪かっ……なっ……」
「あんな事あったのに……」
「……呑気なもんだよな……オールマイ……」
痛くないだろうと、好き勝手な事を呟いては言葉に姿を変えたナイフで簡単に刺す。
怒鳴るのも睨むのも簡単だが、ただ携帯の画面を眺めた。
もう慣れたし、平気だ。
それに彼等の言う事は、至極真っ当な意見だと思ってる。
ヒーローは人気職。
オールマイトの様に人望もあり、強くて自分達を【救ってくれる】ヒーローが、世の中の求めるヒーローなのだ。
だから仕方無い。
日常を非日常へと変換させていくストレス、膨大な情報からのプレッシャー。
些細なきっかけから可能な限り起こりうる事態を予測し、そしてそれに対処する事の難しさ。
切り取った綺麗な部分だけでは成立していないと理解している人間がどれだけいるのだろう。
携帯をしまうと、その場でほんの少しだけ現実との交信を絶った。