第7章 イカれた帽子は兎と歌う
「何がそんなに怖ぇんだ」
18:35
雄英高校への一本道。
遊びに出かけた生徒もまだまだ帰って来ないのか、たまにすれ違うくらいで人通りは少なかった。
イチは、誰かが近くにいると落ち着くのか顔色は良くなっていた。ただ何時もみたいには話さなかった。
聞かなくても良い事ではある。
だが真実を隠して、自分への謝罪を隠れ蓑にした事に、爆豪は少し腹をたてていた。
もうすぐ山道の終わり。
この先聞く事も無いだろうし、コイツはもう直ぐに居なくなる。
好奇心?違う。
【あえて】という行為は人間に与えられた一種の悦のようなものだ。
微かな動揺が右側から伝わってくるのが分かった。
しかしその行為に対して人は勝手に自責の念にかられる時がある。
くだらない。
じゃあ最初から言わなければいい。大人気ないことをしたな。そう言ってしまえば簡単だろう。
そうじゃない。
だからこそ人間は困った生き物であり、それ以上に愛おしい存在なのだ。
「特に理由はない。ただ明るいのが、暗くなってくのが良くわかるからイヤなの。
青いのも、赤いのも好き。
黒いのも。
でもその間が、イヤ」
これ以上聞くなと思っても、つい聞いてしまうのも人間の性なのだろうか。
「……何だよ間って」
「たまに真っ青になる。
朝とか昼とはちがう青色。
明るかった青が赤くなってきて黒に変わる前だから青はどんどんきたなくなる。
それが自分の目を見てるみたいで……イヤ」
下を見てから、真っ直ぐに前を見つめるイチの瞳の色を思い出す。
確かに近くで見た時、明るい青ではなかった気がした。
少し濁った濃い青色。
「それだけ!」
大合唱していた蝉の声は少なくなり、いつの間にか山道は終わっていた。