第7章 イカれた帽子は兎と歌う
「……冗談じゃねぇのかよ」
何処へ行くのか決めさせようと振り向くと、イチとかなり距離が出来ていた。
いつもの陽気な姿は無く、夏なのに寒さを凌ぐ様に両手で自身の体を抱きしめ、時折キョロキョロしながら歩いていた。
「何で、んな後ろ居んだよ」
深い意味はないが、気になった。
本当に何となく。
爆豪がその場で立ち止まり待つと、足音が無くなったのに気づいてかイチが走ってくる。
走っているのに、相変わらずイチの足音は聞こえにくい。
それもあってか知らず知らず距離が空いてしまったようだと、爆豪は思った。
「…別に密着しろとは言わねぇが、何で今もそんな離れんだよ」
勝手に0距離まで侵入してきた距離じゃねぇだろ。
と言いたくなる約1メートル。
つい怒った口調になったが、爆豪としてはまだ普通の会話の範囲である。むしろ優しい方だといえる。
「さっきは嬉しくて忘れてたけど、勝己怒らせちゃったみたいだから。離れてた方が良いんでしょ……」
ウィルにも、怒られた……と足元を右へ左へと不規則にみる視線は合わない。
急にイラついていた自分がアホらしくなる。育ちの違いを言い出したらきりが無いが、イチにとってアレは普通なのだ。
ましてや14歳にしては幼い言動や行動がイチは目立つ。
いつもの舌打ちを1つして、爆豪は腕組みをするとイチと正面から向き合った。
「バカにすんな、あんな事で怒っちゃいねぇ」
「……ホント?」
「ったりめーだろ。てか、怒らせた気がねぇんなら謝んなウゼェ。いいからこっちこい」
イチを自分の横に来させると、アイス屋のホームページを開いて、歩きながら選べと携帯を渡した。
どうやら店は決めて、味だけ選ばせることにしたらしい。