第7章 イカれた帽子は兎と歌う
18:15
賑やかな雑談の最中、窓から見える外はまだまだ明るかった。夏は日が落ちるのが遅い、夕暮れが黄昏に変わろうと準備している。
実家で過ごしていた日々が、今年の夏から学校で大半を過ごす。
当たり前だった日常。それはとても贅沢で、同時に親元を離れる寂しさを緑谷はふと感じていた。
(昔の人は的を得たことわざを作るな…)
ガチャガチャッ…
玄関から聞こえる解錠の音に、全員が敏感に反応した。
「あっ、爆豪帰ってきたんじゃねぇか?」
「今の今まで暴れてたのかなぁ?ほーんと元気だよね…てゆうか、ここでまで暴れないよね……」
「い、イチくん?とりあえず謝るのは様子見てからにしよう……!と、とりあえず、あっちでダークシャドウと遊んでようか!?常闇くん!」
「…仕方あるまい」
常闇がイチを連れて奥に引っ込むと、ダークシャドウが出てくる。
「イチ〜♡」
気が合うのか、2人は休憩時間に好物のリンゴを一緒に食べたりしていた。
間に挟まれる常闇は、ただ静かにそれを見守っている。
それを見て緑谷が仲良しだね、と言うと「動物的波長が合うんだろう」と悟ったように漏らしたという。
そんな姿は子供の世話をする休日お父さんみたいと、もっぱら女子の間で話題になっていた。
バァンッ!
――まだ気が立ってる!!
ドアの開け方で誰か分かるのは、きっと爆豪位だろう。乱暴に入ってくると、真っ直ぐソファの方へと歩いてくる。
あまりの気迫に猿団子状態になっていた面々は、静かに怯え、とりあえず…と耳郎が上鳴を生贄に差し出した。
「耳郎おまっ!!…お、お落ち着け爆豪!あれは仕方が無い事だから!なっ!?」
「レモンの味したか?」
「「峰田ーーーー!!」」
光の速さで上鳴と瀬呂が峰田の口を押さえたが、それに気も止めず爆豪は切島に話しかけた。
「あいつは?居んだろ?」
あいつ?ハッとした切島は、とりあえず応える。
「イチの事か?いや、奥に居るけどよ……」
それだけ聞くと、爆豪は奥にいるイチの元へと向かった。
静かなる暴君を止める事も出来ず、一同は固唾を飲みこみながら爆豪の後ろ姿を見送り、子どもを守ろうとするお父さん(常闇)のささやかな抵抗を見届けるしかなかった。