第7章 イカれた帽子は兎と歌う
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自主練の話から脱線し、イチのスキンシップについての話で場は盛り上がった。
特に峰田と上鳴の健全男子高校生コンビはお祭り騒ぎであった。
「おいおい、つー事は何だよ…!お前あっちじゃ女子にも口にしてんのかよ…!?」
「うん」
お菓子を摘みながら、恥ずかしがる素振りもみせずイチは頷く。
「マージーかーよ!なんだそれ…!海外すげぇ!」
ガッツポーズをした上鳴が、天を仰いで思いを噛みしめると「いや、変でしょ」と耳郎は呆れた顔でツッコみ
「いやまてよ上鳴…。ここだって外国だぜ…て事はオイラたちがやったとしても合…ブハァッ…!」
そしてさも正論だと言わんばかりの峰田の発言を、容赦ない蛙吹の舌が制止すると即座に隅に放り投げられた。
もはや日常。誰も心配する素振りを見せはしない。
「ウィルも皆としてるよ?ナンシー、ケイトに、イザベラにジェイミーにナミコ…アンナ…」
唖然とする一同を置きざりに、呪文の様に指を折りながら、イチは女の名前を出していく。数人は何となく事の真相がわかった気がしたが、イチはあどけない表情で続ける。
「皆お医者さんとか、ケーキ屋さんとかしてる普通の人。でも仲良しだから、ウィルに会いに来るんだ。昔から訓練してる時に来るから、あんまり話した事はないけど。
でも何時も帰る時は仲良しのキスしてるのは知ってる。
で、帰るついでに、コッチにもキスして帰ってくんだ。仲良くしたいキスだよって」
イケない想像と、子どもを騙して納得させる大人の姿が脳をかけ抜けたが、イタズラに笑うウィルの姿も容易に想像できた。
【強い+推定40歳手前+優しい+アニキ肌+謎+色気=モテる】
【それに育てられてる美少年+甘えん坊体質+天然=将来性】
「そら、女寄ってくるわ…」と瞬時に悟る耳郎と「やっぱり悪い大人ね」と蛙吹の辛辣なツッコミが直ぐに飛びかったが、峰田と上鳴ついでに瀬呂は
「うおおぉ!オイラ明日から師匠に弟子入りするぜえぇ!」「オレも!」「ッシャぁ!」と、3人で円陣を組む始末。
「仲良くすんのって、やっぱ大変なんだな…」
隣で轟が真顔で呟くが、きっと自分達とは違う想像をしているだろうと、緑谷は黙って見過ごす事にしたのだった。