第7章 イカれた帽子は兎と歌う
落ち込む全員の気持ちをよそに、イチは自ら自主練の相手を買って出た。
そして興奮しながら全員の顔を見渡し、嬉しそうに足をパタつかさせた。
「ウィルが付き合ってやれって、言ったんだから大丈夫だよ!それより嬉しいな!ジャンケンしてまで決めてくれてたんでしょ!
嬉しい!今からやる?誰が最初ッ!?」
始終体が縦に揺れ、青山も敵わないんじゃないか?という程キラキラした姿は、ボールで遊ぶ犬、それか夜中に急に活性化するハムスター。
恐らく全員の目に、尻尾か回し車が見えたに違いない。
「所で、イチちゃんはどうして寮まで来たのかしら?」
イチの興奮を抑えるためか、蛙吹がお菓子とジュースを持って話しかける。
その姿はやはりお姉さん気質なのだなと、改めて思える一コマだった。
イチはジュースを受け取ると、爆豪に会いに来たと言った。理由は先程の授業後のあの事…。
あの後、散々叱られ謝ってこいと言われたらしい。言い方は悪いが飼い主(育ての親)に似るとは良く言ったもんだと、緑谷は思った。
まだ帰っていないと知ると、今度は分かりやすくシュンなる。それを見てか、緑谷の隣に立っていた轟は隠すように口元に手をやり顔を横にやった。
「何時もあぁいう事するの?」
「うーん、特別に仲良しな人か、仲良くしたい人にはするよ。コッチじゃしちゃ駄目って言われてたんだけど、さっきは嬉しくて忘れちゃった。
勝己怒っちゃったかな…?」
一同は言葉を濁したが、未だに帰ってこない事を考えると、完全に取り扱い注意状態だろう…。
「うーん、怒…ってうーん…デクくんは幼馴染としてどう思う?」
「そうだな!幼馴染の緑谷君に意見を聞くのが正解だな!」
「えっ僕!?え、あのえーっと…」
まさかの振りに緑谷の額から汗が吹き出す。
変な事言っても、いや、たとえ言わなくても、爆豪の逆鱗に触れるだろうと分かっていた。傷口に塩は塩でも粗塩を擦り込むようなものだ。
どうにかはぐらかそうとしている緑谷を見かねてか、八百万がプリッとした助け舟を出す。
「で、でも口になさるのは珍しいですわね?一般的には頬だと私認識していましたわ!」
そこかー…!耳郎を始め数人が心の中でツッコんだが、緑谷だけはある意味、安堵したのだった。