第7章 イカれた帽子は兎と歌う
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ピーンポーン
ジャンケンを終え、雑談しているとチャイムが響いた。
鍵は寮に住む者と担任しか持っていない。
そのため他の誰かが訪ねる場合は、必ずチャイムが鳴る使用になっていた。
となると、まだ帰って来ていない爆豪では無いという事だ。
ドア近くに居た耳郎が代表して、訪問者を確かめに行った。
どうやら知り合いだったのか、楽しそうな声が聞こえると中へと招いていた。
訪問者はまさに話題になっていたイチだった。
さきほど別れた時とは違い、ボロボロになった服から八百万が創ったTシャツと、半袖のカーキー色のツナギを着て耳郎の腕にくっつきながら入ってきた。
イチいわく女子はいい匂いがするから抱きつきたくなるらしい。そんな悪意の無いスキンシップは女子の警戒心を解き、嫌がられる事なく受入れられつつあった。
そしてそんな無双状態を、超健全高校生男子の峰田は羨望の眼差しで見ている。
(弟&友達的立ち位置の甘えん坊系美少年……)
そして峰田は、違った意味でイチの行動を観察し、毎日【女に警戒されない男の振る舞い方】を夜な夜な調べるのが日課になっているのだった。
峰田が内なる欲を溜め込んでる中、耳郎はお茶子と八百万や葉隠が座っていたソファにイチを通した。
お茶子と葉隠の間に座ると寮に興味津々なのか、イチはしばらくキョロキョロしていた。
「イチくん寮来るの初めてやね。そういえばどこに泊まってるん?」
「泊まってないよ、夜は任務で出てるんだ」
「そっか、夜に……って、夜に仕事してるん?」
「うん、他にも仲間が来てるから、夜だけで済んでるんだ。だからこっちはウィルと2人で、日中は訓練に付き合えるんだよ」
「そうだったんだ。イチは働き者だね!」
「……はっ!てゆうか、勝手に話進めとったけどそれだったら、あんまり自主練付き合ってもらうん大変だよね!」
まさかの真実に罪悪感から皆が落胆すると、不思議そうな顔をしたイチに、切島は申し訳なさそうに説明した。