第6章 手に塩かけてませんから
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「じゃあ、婆さん頼んだわ。…なんだよ、戻ったんじゃねぇのか?」
「貴方と少し話がしてみたくてですね」
リカバリーガールに爆豪を任せ、ウェンウィルが保健室を出るとセメントスがドアの横で立っていた。
「おぉ、いーぜ。何か飲んで待つとするか」
側にあった自販機で飲み物を買い、壁に寄りかかると立ち話が始まる。
「学校けっこう面白えな」
「お気に召しましたか?」
「まぁな。
オレに言わせりゃ【ヒーロー】になりたいって思う事が、まずスゲぇけどな」
「ヒーローになりたい時点で強い【我】が無ければ務まりませんからね」
「ナルホドな。つーか講師って大変なのな、婆さんにこっぴどく絞られたわ」
「そうですね、結構雑務とかもあって大変です」
「ヒーローやって教師やって、ご苦労なこった」
コーヒーを飲み干すのを待って、セメントスは静かに尋ねた。
「貴方は【あぁなる】のを予測して私を呼んだんですか?」
「……それ聞いてどーすんだ?」
「ただの答え合わせです。興味と探求とも言いますが」
「なるほど、講師なら質問には答えろ。だな」
「私の予想だと爆豪君は貴方達の実力を認めていたのに、あえてあの場を設けた様に思えたので」
男の横顔を蛍光灯の光が綺麗に影をつけて、彫りの深い顔立ちが一層引き立つ。
光が強ければ影は濃くうまれるのは当たり前の事だ。
「勝己は他の奴等と違って、素直がひん曲がってる。頭で分かっても消化不良しがち、だから粗治療した。ついでにイチもな」
「なるほど……可愛い生徒ですからね」
「こんな直ぐ居なくなる奴が言っても説得力もないけどな。
まっ、だから施設壊さねぇ様に、クッション代わりに建ててもらっといたってわけだ。
まだまだ面倒かかんだよ、アイツ」
「そうですか。
……しかし残念です。
貴方達とはもっと違う形でお会いしたかったですね」