第5章 キャンディをどうぞ
暫しの談笑。
あの時は聞こえなかった、爆豪との約束の話も。
時間内に倒してもないし、時間がきても突っ込んだ自分の負けだとイチは笑う。
「コッチのアイスが食べてみたかった」という年相応の発言は微笑ましく思えた。
切島が寮にあるアイスをやると言うと、仲の良い兄弟みたいに戯れていた。
「あー、オレもバトルしたくなってきたぁ!イチ!手合わせで良いからオレともやろうぜ!」
空気にあてられた切島がイチに頼むと、じゃあオレも! アタシも!と皆がいい始めた。
それをイチは困った顔で「ウィルに怒られるから」と言って断っていた。
「えー爆豪だけズルーイ!!」
「そうだぜアイツだけずるいぜー」
芦戸と上鳴が食い下がると入り口から声がした。
「フザけんな、てめぇ等モブと一緒にすんじゃねぇ」
声の方を見ると、保健室に行った爆豪とウェンウィルが何故か戻って来ていた。
「イチ、手合わせならしていいぞ。ついでにペナルティーだ。自主練も付き合ってやれ」
当たり前だが2人は自主練は一切ノータッチだ。
まさかのお達しに一同は喜んだ。
「ったく、退けアホ面」
喜ぶ皆をかき分け、イチの前に立つ爆豪。
リカバリーガールの治療を受けたその姿は、普段以上に絶好調に見えた。
「おい舐めプ2号」
1Aのあだ名製造機=爆豪勝己
人の名をまともに呼ばなさ過ぎて、一部のクラスメートからは覚えられていないのではと囁かれている程だ。
「なめ……?何それ」
「1回しか言わねぇからな」
「え、スルーなの」
イチが少し拗ねたポーズを取ると、爆豪は一息に言い捨てた。
「…いいか、近所のアイス屋にしか行かねぇからな」
「え?」
「次はぜってぇ俺が勝つ!」
イチが少し困惑していると、一部始終を見ていたウェンウィルが通訳した。
「約束したから勝己がアイス連れてってやるってよ」
みるみるイチの顔が笑顔になり、ウェンウィルと爆豪を交互に見てから、目の前の爆豪にイチが飛びついた。
「あ、やべぇかも」
ウェンウィルが小さく呟いた。
その日、緑谷出久は幼馴染が恐らく初めてであろうキスシーンを目撃する事になるのだった。