第5章 キャンディをどうぞ
吹き飛ばされたイチは、後方にドミノの様に建てられていた塀をぶち抜いていった。
何枚目かでようやく止まったようだ。
「…!!?」
「わっ、大丈夫か!?あれやべぇよ!!」
「おい、下いこうぜ!」
全員が急いで下へ降りていくと、ウェンウィルは爆豪にケガの具合を聞いていた。
「おい、俺たちはイチを見に行こう!」
「うん!」
「行くなお前ら」
「!?何でですか」
「早く保健室に連れて行かないと…!」
口々に皆に言われると、ウェンウィルはしょうが無いと言わんばかりの顔をして、自身が吹き飛ばした方へ叫んだ。
「おいイチ!!いつまで寝てんだ、早くしろ!」
数秒後。
崩れていたコンクリートの塊が動き、中から血だらけのイチが現れた。
その姿は遠目から見ても分かるほどで、頭から肩にかけて真っ赤だった。
「っくっそ……ガード遅れた…ッペッ」
小さな体で大きなコンクリートの欠片を軽々とかき分け血混じりのツバを吐くと、流れる頭の血を腕で拭きながらこちらに走って戻って来る。
「…ごめん」
「ったく、程々っつたろ。とんだ猟犬だぜお前」
「…わん」
傍から見れば謝罪の言葉が出るのも変な話だが、何事も無かった様に2人は短く会話した。
「勝己大丈夫?」
「あぁ、内蔵は潰れてないし意識もハッキリしてる。
だがリカバリー婆さん行きだな」
「…セーフ?」
「…だと思ってんのか?」
「だよねー。アイス食べたかったなぁ」
「ったく、貸し1だからな」
残念がるイチを背に、傍観者の生徒達に振り向いてウェンウィルは「余興は終わった」と告げた。
「今日は以上だ。オレは勝己を婆さん所に連れてくから、各自片づけして解散」
そう言うと、すでに地面を整えていたセメントスと、負傷した爆豪を連れて出ていった。