第5章 キャンディをどうぞ
「ヒッ…クシッ!……やっぱ響香を見に行こうかな」
イチが壁から体を離すと、爆豪の怒声が飛んでくる。
「オイコラクソガキまてや!」
「……見つかっちゃた」
「ったりめぇだ!チラチラ見切れてんだよ!出んなら出ろや!」
「勝己怒るんだもん!」
「ッるせぇ!なら消えろ!」
「ホントに口悪いね」
「ならてめぇはクソ生意気だ」
ひとしきりやりとりすると、柱の後ろに隠れていたイチが、不貞腐れた顔で出てくる。
【共闘コロッセオ(シングルバージョン)目指せ★完・全・制・圧・ブっ壊せ!】で暴れていた爆豪は、足元に転がった機械を足でどけて、自身についた埃をはらった。
「なんの用だよ」怪訝な表情をする爆豪。
「よく言うや、まだ聞く耳?持たないんでしょ?」
アドバイス受ける気無いくせに。
そう思いながら、地面に転がる機械を触りながらイチは答えた。
来なくても良かったけど来てみた、そんな感じだった。
「別に。…んなんじゃねぇよ」
口籠る爆豪をみるや、開いていた2人距離は一方的に詰められた。
鼻と鼻が付きそうな勢いで互いの顔が近づく。
パーソナルエリアにあっさりと侵入したイチの顔に、爆豪は思わず後ろにたじろいだ。
「ごめん!」
「……はっ?」
「ひどい事思った!ごめん!!後でね!」
それだけいうとイチは後ろに退いて、再び入り口から出て行ってしまった。
取り残された爆豪は、訳が分からないので小さく舌打ちをしてみた。
誰かの顔があんなに近いのはあまり経験した事はなかった。
近くにきた青色の猫目がちな瞳は、綺麗な青色ではなく、暗く深い青色だった。
「ッんだよ……調子狂うわ」
爆豪はもう1度小さく舌打ちして、訓練を再開するのだった。