第5章 キャンディをどうぞ
「よっ、【熱中症年】今日は倒れんなよ」
轟が一息ついて水分をとっていると、手を振りながらウェンウィルがやってきた。
―――パキパキパキッ…
「おいおいやめろよ、もう寒ぃの勘弁だぜ」
この前より遅いが、軽く避けられてしまった。
やはり以前はワザと捕まったのが窺える。
「アイツから聞いたのか?」と轟が尋ねると男は少し口角を上げた。
「まぁな、一応預かってる身だし。自主練はけっこうだが、水分はちゃんと摂るんだな」
そう釘をさされると「……分かった」と頷き轟はシュンとしていた。
「くくくッ……。どーりでイチが懐くわけだわ」
愉快そうに男は、笑っていた。
正体が分かってから見る2人は特に良く笑う。
あまり笑う事がない自分には、良く分からない光景だと轟は思った。
「笑った顔が可愛かったつってたぜ、オレも拝みてぇもんだ」
「なんでだ?特に何もおきないぞ?」
「…ったく、すげぇ宝の持ち腐れだな」
「逆に何であんた達はそんな笑うんだ。さっきも……特に面白くもないのに」
近くにあった岩に腰掛け、ちょっと話そうぜと男は言う。
男はその場に座るや否や「焦凍、お前なんで破られたのか分かんねぇんだろ」あの日からずっと轟が疑問に思っていた事を話題に出す。
「あれな。ちょっとズルしたんだ」
「ズル?」
「オレの個性な、ちょっと便利で大気中の【チリ】とかでも反応すんだ。風圧とか重力とか少しの冷気にさえな」
「冷気……」
「つまり体に触れるもの全てだ。
そしてストックができる。
例えば100の力を受けても20の力で返したい場合80余る。それは個性を解かない間、体に残る。
捕まったが体に受ける冷気を体で受け止め力を溜め、お前らの話を聞きながら体を揺らし、氷に細かくヒビを入れていた。
それをイチの合図で、あたかも一気に突破した様に見せた。
これがマジックの正体だ」
「何で教えてくれるんだ」
「なんでだと思う?」 轟は、少し考えてみた。
「……分からねぇ」
「好きな女が出来たら察してやれって事だよ」
2重に意味が分からなかったが、男は持っていたファイルを置き、少し開けた場所に移動し轟を見据えると手招いた。
「来いよショート、勉強の時間だ」
男はまた楽しそうに笑っていた。