第5章 キャンディをどうぞ
右足が出た時、左足の甲を押さえると同時に少しだけ体重移動を促された。
左足の踏ん張りと腰から右足にかけての軌道も支えられ絶好のタイミングで右の蹴り。
一人でやっていた時には無かった感覚だった。
「出久はまだ足の踏ん張りがなれていないだけだよ。あとえーと、体幹」
「そうか。飯田君にも聞いた時も思ったけど、足の踏ん張り方が全然違うよね」
「今は教えてもらって、後は自分でモノにしたらいいよ」
「うん、ありがとう。イチもこんな風にウィルさんに教えてもらってたの?」
「え?」
「あ、その……育ての親みたいなものだって聞いて、教えて貰ってたのかなって」
全部言い終えてから、いつぞやの轟との一件を思い出した。
本当にお節介というか踏み込み過ぎる節があるのは自分の悪い癖だが、イチは気に止める素振りも見せず答えた。
「教えるっていうか……殆ど本番?今はマシになったけど、はじめの方は何回か死にかけたよ」
「……ッはは…」
「ウィルは見て覚えろだから、そう感じたなら他のおかげかな。少しだけ出久に似てるのもいるよ」
「僕に?」
「うん、優しいんだ」
そう話したイチは微笑んだ。
「じゃっ、次は鋭児郎の所に行くね」
手招きされて近づくと、整った顔が近づき頬にキスされた。
「えっ、あッえぇッ!!!?なッなにをっ!?」
緑谷は直ぐに顔を離して頬を押さえると、みるみる顔が赤くなっていった。
その様子をイチは首を傾げて不思議そうに眺めていた。
「……やっぱりこの国はしないんだね?影踏とかも出久と同じリアクションだった」
「とかもって……えっ、皆にしてるの?!」
「うん?あ、ちゃんとダークシャドウにもしたよ。仲良しのキス」
「へ?仲良し??」
「挨拶とかでもするけど、仲良くしたい場合もするんだよ。
あ、でもショートは普通だったよ。あと、百も」
「あ、そそそっそうか…あっちでは挨拶だもんね。ごめん、慣れないからビックリしちゃって」
(八百万さんは家柄慣れてるかもしれないけど、轟君は…様子が想像できるな……)
また来ると告げるとイチは切島の元へと行ってしまった。
仲良くしたいキス。熱くなった頬に照れながら、きっと切島君もビックリするんだろうなと、緑谷は少し可笑しくなった。