第1章 序章 戦闘技術
「やぁ、みんな校長だよ!
さて、先日の出来事はとても大変な事件だったのは記憶に新しい。
しかし全ての脅威が終わったわけではなく、始まりに過ぎないだろう。
また生まれるであろう脅威に負けぬ為、君たち未来のヒーローには更に力をつけていって欲しい。
そこでだ。
私の古い友人の紹介で急遽仮免取得まで君達に訓練をつけてもらう事となった」
根津が目配せをすると男は一歩前に出て話し始めた。
「はじめまして、雄英高校ヒーロー科一年生の皆さん。ウェンウィルと申します」
見たところ国が違う男の流暢な言葉使い。
外見からは想像できない優しい声に何人かは惚けた様子だ。
「彼は向こうでとある部隊に所属していたんだ。こう見えて語学は堪能なのさ」
「こう見えてってのは余計ですよ」
「まぁ細かい事は各々聞いてもらうとして、簡単に紹介しよう。
彼はヒーローではないが体術・戦術などの戦闘技術に関してトップクラスの実力者でね。
個性重視の世界で個性は強力な武器であり、時に諸刃の剣でもある。
そのため今まで以上に個性だのみになるのは良策ではない。
ここは雄英高校、現役プロヒーローが君たちの講師だ。
これ以上にない環境だが、経験値は多い程良い。
違う世界を生きる人間からの刺激も必要だ。
そこで仮免許までの間ではあるが、来てもらったというわけだ」
「短い間ですが皆さんの良い力になれる様に努めますので宜しくお願いします。
それと私事で申し訳ないのですが……ほら、ご挨拶して」
そう言うと男の後ろに隠れて恥ずかしそうに下を向いていた子どもが前に出された。
背は低く150センチあるだろうか。サラサラした黒い髪は轟焦凍より短く、顔は轟に負けず劣らず整ってみえた。
ー 夏なのに全て閉じた白の長袖のシャツとGパン、見ているこっちが暑くなりそうだ ー
そんな教室中の視線を浴びながらその小さな子供は消えそうな声で「イチです」と一言囁くとまた下がってしまった。
「申し訳ない、人見知りなものでして。年は14で、校長のご厚意で後学の為に一緒に参りました。短い間ですが、良かったら仲良くしてやって下さい」
いくつかの情報が付け足されると、何となく2人を見比べた。
色白の子供と健康的な肌の男。
あぁ、母親似なのかとつい予想してしまうのが一定数の人の性なのだ。