第5章 キャンディをどうぞ
「出久っ!」
「!……あ、イ、イチッ」
急に名前を呼ばれ緑谷はあたふたした。
「どっ?」
にこやかにこっちに歩いてくる今のイチは、無邪気なただの子どもだった。
「あ、あぁっえと、どうだろうね。実は昨日の授業で腕に負荷をかけ過ぎない様に、シュートスタイルっていうのに変えてみたんだ。
それでウィルさんに相談して、メニューを変えてもらったんだけど…まだ上手く掴めなくて」
「そっか。出久は上(半身)で戦うスタイルだったもんだね」
「うん。足を使えばいいんだって気づいてさ、ははッ、こんなに簡単な事なのにね」
思わず緑谷が自身を卑下すると、イチは両手で緑谷の顔を掴み真っすぐ目を見つめ「それダメ」とだけ言って手を離した。
「そんで何が上手くできないの?」
屈伸し始めたイチが徐に質問し始めた。
「あ、えっとあんまり足って使ってこなかったから使い方がまだ分からなくて。飯田君に聞いたりして昨日からやってるんだけど」
「天哉に聞くのは正解だね。下(半身)の使い方ならクラスで1番だし」
じゃあねぇ……と、【鍛えろ体幹★避けて攻撃しようぜ青春!!】(鬼の様に無理な態勢からの反撃を強いられるよ!)に向うとイチは設定をいじっていた。
「とりあえずやってみてよ、出久」
「う、うん!」
ヴィー…ヴィー…ヴィー
暫く機械を相手にすると、突然機械の後ろで見ていたイチが飛び出してきた。
両手足を壁に繋げ行動範囲を狭めていた緑谷は、間髪左に避けてから、更に機械の攻撃を上半身を後ろに反らして避ける。
その隙に右から足元に移動していたイチが、緑谷の左足甲を押さえると同時に「出久!右上!!」と叫んだ。
軸足を一瞬奪われ、声に反応して咄嗟に右足が空をきった。
ヴィー…ヴィ……ッ
「ッ…ハァハァ…ッ………ハァ」
無理な体制で打ち込むための機械は、良い位置で打ち込まないと手動以外では止まらない。
緑谷は膝に両手を置いて息を整えると、喜びが口から飛び出した。
「ッ……ハァッ…ッ、や、やったぁ………」