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シュガー・クッキー【ヒロアカ】

第4章  持ち続けるべきこと




 オーバーワークし過ぎた体を休めるつもりで轟はランニングをしていた。
 …氷で覆って動きを奪うだけだったのに、思わず力の入った厚さのある自身の氷の事を轟は思い返す。

 一瞬で割る事ができたのはなぜだろうか。
 本当に2人が敵だったら、…緑谷はどうなってしまっていたのだろう。
 仮免までは点呼が始まるまでに、寮に戻ればいい。特に気持ちが高ぶる今日はギリギリまで体を動かしたい、少しは醒めない熱が冷めるだろうから。

 遠くから怒声が聞こえる。

(あいつもまだやってんのか…)

 何故か自分の服の裾を掴む子どもの顔が頭をよぎった。

(…親子じゃ無いのか)

 程なくして、轟の視界は歪んだ。






 顔に冷たさを感じ目を開けると、ぼやけた暗い星空が視界に入る。
 現実がゆるやかに戻ってくると、顔に冷たさを感じた。横目に見るとストローが刺さったスポーツドリンクを持ったイチがこちらを見つめていた。

 倒れたのか、そう気づくのに時間はかからなかった。
 上半身を起こしそれを受け取ると、少しずつ含んだ。
 水分が体に染みむと視界ははっきりしだした。


 「…わりぃ、助かった」


 頭に濡れタオルと、枕代わりのタオル。 
 少し離れて身に着けていたシャツと靴が置いてあった。
 聞けば水分を取らないのが気になって用意していたらしい。
 乾いたタオルを差し出す手の傍らには空になった水が数本転がっていた。

 顔や体を拭きながら側に立つ子どもを見ると、今日まで着ていた暑そうな服ではなくなっていた。
 大きめの黒のノースリーブに白の半ズボン。
 よく見ると体の至る所に傷があった。
 薄暗いこの場所でも、白い肌に残るそれは存在感を持っていた。


「ショート気持ち悪くない?ばあちゃんとこいく?」矢継ぎ早に出る言葉を制して、大丈夫だと伝えると、子どもはそのまま俯き隣にしゃがんだ。
 

 「…ショート今日の怒ってる?嫌いなった?」と少しだけ顔をあげて轟を見つめる。
 「そんな事ねぇ」と応えると、パッと明るい表情に変わりイチは嬉しそうに後片付けを始めた。
 
 騒動が起こる前と別人。
 本来の性格は相当人懐っこく、よく笑うと皆が言っていた。
 確かにそうだなとコロコロと変わる表情に思わず、轟の口元が緩むと「ショート笑った」と嬉しそうにイチは笑うのだった。

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