第16章 血生臭い足跡
「まっずっ」
イチは赤い唾を吐き出すと、無造作に顔を肩で拭った。
その仕草……ではなく紅白に染まる色彩は不名誉な栄光を思い起こさせ、爆豪の不快感を一層強くさせるには充分であった。
(クソ舐めプ2号がっ!)
「離っ「勝己はさ、どんなヒーローになりたいの?」
遮った言葉は絡みつく様に爆豪の耳へ運ばれた。
ヒーローを目指してる人ランキングがあるならNo.1であろう問いかけは、やけに耳馴染みがいいのだ。
「……離せや」
ただ聞かれたからと言って答える義理もない。
それもまた一個人の自由なのだから。
代わりに出たのは憤怒しているのも含めた、この狭い空間の息苦しさの具現化ともいえる抵抗。
「離しちゃったら吹っ飛んじゃうよ、それに前はずっとつないでくれたのに冷たいなぁー。
お話しようよ、ね?」
―ギリリッ……
絡められた指に更に力が籠もる。
負けじと爆豪も手を離そうと試みるが、その場で肉と肉が擦れる音だけが僅かに響くだけだった。
「馴れ合ったつもりはねぇ、調子乗んな。
訳分かんねぇ奴と、あれ以上話す事なんざねぇわ」
柄にも無い事はするもんじゃない。
特にコイツには、と付け足したくなる位今度はため息で苛立ちを表した。
ただどんな事でも要は繰り返さなければいい。
それが爆豪なりの取り決めであった。
その証拠に間違えた問題も次は答えられるし、1度見たものなら大抵2度目は対策できる
「ふーん、【どんなのか】分かればいいんだね」
はずなのだ。
「あ゛?いいからど……――!!?」
だけど予期せぬ出来事とは本当に突然やってくるわけで。
それでもって一度あることは二度あるわけで。
呆気にとられるとはこういう事で。
口中に広がる鉄臭さが今度は味覚まで犯していった。