第16章 血生臭い足跡
すぐさま脳内に数秒先のビジョンをたてる。
こんなふざけた事が何度もあってたまるかという現実逃避的思考。
それなのに体はまた言うことをきかない、口は閉じようにも閉じない。
思い浮かべた未来ではとっくに外へ出ているというのに。
「ッンク……ゥッ…」
左に少し傾いていたせいで、爆豪の口の端からは吐息と共に赤色混じりの唾液が伝う。
イチは唇を離すとニヤリと片方の口角をあげてから、妙にザラついた舌でその頬を舐めあげた。
――ブチッ
―――B……
フェンスが激しい音をたて震えると、それから少し遅れて水が辺り一面に降り注いだ。
それと同時に『離れると弾かれちゃう』その意味が解けた瞬間でもある。
繋がれた手が解放された途端、弾かれる様に体は外へ投げ出された。
つまりはあの空間では本体(イチ)に触っていなければ他者には個性が適応されない。
例えるなら反発する磁石を無理矢理押さえつけているみたいなもので、ストッパーが無くなって反動で外へ弾き飛ばされたという所だろう。
時間にしてみれば5分とない閉鎖的な空間への拘束。
なのに、居心地はこれ以上ない程に最悪なものだった。
網のクッションは衝撃の割にダメージを軽減させたのか、爆豪は体を素早く立て直すと導線上に対象(イチ)を捉え見据えた。
が、今の爆豪にとってはその行為も違和感でしかなかった。
「答えろ、テメェ俺に何しやがった」
「チュウした」
「分かっとるわ!そっちじゃねぇ、真面目に答えろクソが!
何で【こう】なってんのか聞いてんだよ!!」
「へぇ……こんなに早いんだ」
しげしげと爆豪を見つめてイチはポツリと呟いた。