第16章 血生臭い足跡
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あの日唯一自分だけが知らなかったイチの個性。
クラスでの話題がもっぱらその件についてだった事から、嫌でも耳に入ってきていた。
第一印象は、扱いやすくはない。
目のあたりにした今もその印象は変わりはしなかった。
それこそジーニストと同じく地道な鍛錬を積み上げなくてはならず、その為には純粋な戦闘力が必要不可欠なのにも頷けた。
ただ
この現状に対する解答にはなりはしない。
本当に腹立たしい事に、言葉はおろか身動きも取れず床に寝転がっている。
かろうじて呼吸と共に擬音を発すれば、反響してボヤケた音が木霊した。
「大きな声だしたら、くるしくなっちゃうよ?」
唇を一刀両断するイチの人差し指が湿った青いコンクリートの床、つまりはプールの底で組み敷いている爆豪の下唇をやわやわと触る。
その様子はさながら、雰囲気も何もかも一切無視すれば、某国民的アニメ映画の森の妖精の腹で寝そべる幼女のワンシーンにそっくりであった。
「コレおもしろいでしょ?人と一緒にやるの初めてなの」
ウキウキとした面持ちで、イチは人差し指だけ上へ伸ばしてぐるりと回す。
そう、今2人がいるこの場所。
歪だがドーム状に水を内側から押して壁を作り、小さな空間が出来上がっているのだ(ちなみに空気穴から酸素を取り込んでいるよ)
「でも今日はあんまり長くはダメかも。
コレも浮くのもすぐ疲れちゃうんだよねぇ」
そう言って自分の手と爆豪の手を両手とも絡め、しかと握った。
すると爆豪は己の体が本来の機能を取り戻している事に気づく。
「…‥‥」
「ん?な…「ブッ潰される覚悟はいいかつったんだよクソ……がっ!」
鍛えられた腹筋で勢い良く上半身を起こした。
それと同時に繋がれた事を逆手にとり、力の限り反動をつけて目の前の相手に頭突きをくらわす。
クリーンヒット
誰が見てもそう判定する位の手応え。
だが結局背を再び床につける羽目になっていた。
さっきと違う事と言えば、手を前に拘束されて自分の上で馬乗りになっているイチが鼻血を出していること。
ポタポタと落ちる血はイチの白いTシャツを赤く染め上げ、無駄に映えるコントラスがその姿を鮮明に爆豪の目に焼き付けさせた。