第16章 血生臭い足跡
「地球が生まれて生物が息をし始めて、いつしか水の中で生きていた魚は更に自由を求めて陸へ上がり、知恵をつけ、危険を学び回避し
“誕生と絶滅”
様々な時を経て、今に至る。
しかし個性が出現する前に、進化して退化した。
そう言われた時期があった。
人がただの人だった時代。
今でいう無個性の人しかいなかった頃さ。
野生を捨てる代わりに知能は発達したが、身体的能力はおちていくばかり。
どちらも捨てたく無いと人は抵抗したが、為す術もない」
空になったカップを根津が静かに置くと、緑谷はその動作を無意識に目で追っていた。
【どこを見ていたらいいのか迷った時の手本になるくらい】らしい動作であった。
「未知なるものへの渇望が強かった当時、その存在はセンセーショナルでしかなかった。
【獣人(けものびと)】
世間は彼等をそう呼んだ」
根津の声が尻すぼみに僅かに下がると同時に、緑谷は膝の上で握り締めていた拳に今度は意図的に視線を落とした。
なぜか前を見据える自信がない、ただ耳はハッキリと根津の声を拾い続ける事に努めた。
「……元々彼等は人里離れた地で人知れず暮らしていた。
ざっと言っておくと、狐の他にも兎や虎とか色々といてね、その頃は2足歩行するってだけで見た目も獣そのものだった。
けれどこのままじゃ種として絶滅してしまうんじゃないかと考えた一部の者は人里へと少しずつ紛れていった。
それが出来たのは血液の型が近かった事が大きかったのさ。
ただO型と同じで輸血はできても、当人は同種からしか受け入れられないなど条件はあったがね。
まぁ、それでも充分紛れていくのは容易く、つまりは異種の交配が可能だって事が分かった。
そして彼等は猿が進化したみたいに、少しずつ【人間】になっていった。
イチを見たら分かるけど、見た目だけなら異形型の方がよっぽど個性的なのさ」