第15章 蝕まれた先の咆哮
―――カシャン
「あっれ?爆豪とイチのやつ居ないぞ」
「えー、何2人とも居ないの?」
「声がしてたと思ったのに変だな……?」
「バクゴー!イチー?」
フェンス越しにプールを覗く2つの人影。
プール特有の匂いが漂う一帯は水面が揺れるだけでそこには目当ての姿はない。
手元にあるよく冷えた飲料水は外気との差で汗をかき、着いて早々地面を濡らし始めていた。
「差し入れ(ジュース)持ってきたのに温くなっちゃうね」
「そーだなぁ」
つまらなさそうにペットボトルを揺らすと芦戸は口をすぼめた。
暴君様のトホホな姿を拝めると思ったのにあてが外れたからだ。
「もぉ、絶対に大人数で来ると爆豪怒るからって、切島と2人で来たのに何処行ったんだろ?
まっ、いざとなれば轟に冷やしてもらってー、梅雨ちゃん達先に行ってるし後でもっかい来よっか!」
屈託のない笑顔で提案する芦戸。
切り替えの速さも決断の早さもさることながら、昔から相変わらず彼女には嫌味が感じられない。
そんな姿を見て思い出す中学生だった頃の、あの日。
大男に絡まれた同級生を救けた時、間接的に自分も救けた事を彼女は知らない。
『切島が乗り越えられたって思ったら教えてね』
個性の地味さを心でカバーだなんて大口叩いて、動く事さえできなかった情けない漢。
だから髪を赤く染めて、自分なりに情けない自分と決別して雄英に来た。
「ほら切島行こう!」
約束は守る。
漢は1度決めたら、後悔しねぇ生き方をするんだ。
「…うっし、まずは仮免許取得っ!頑張ろうぜ!」
「おーーう!」
――
―
−
ぼやけた声が遠ざかる。
視界の先の景色は揺らめいて、頭上で浮いている葉や花が生き物みたいに動くから水族館にいるのかと錯覚してしまう。
と、言いつつ昔から狭い場所に閉じ込められた魚を見て何が楽しいのか理解ができない訳で。
理由はわかってる。
自由を奪われて、決められた時間に与えられる食事。
見ているだけで窮屈で
アレがもし自分だったらって考えてしまうのが
たまらなく嫌だからだ。