第15章 蝕まれた先の咆哮
(……いざとなればリカバリーガールがいんのに)
大袈裟だな、筋肉痛の類だろう。
そう思って今日1日誤魔化していたのに。
わざわざこんな事せずとも……
「言っとくがな、婆さん頼ろうなんて考えてねぇだろうな?
あくまでも婆さんの個性は自分の治癒力の活性化。
初めっから予防出来る事は自分で対処できるようになれ。施術しながら、やり方は教えてやるからよ」
ただただ最もな発言に三度黙ってしまう。
しかしわざわざ簡易ベッドまで用意していた辺り、世話焼きな男だ。
それに節々にみせる行動や発言もだが、とにかく周りをよく見ている。
少しでも苦戦している生徒がいると、的確なアドバイスが直ぐに提供され、現にこの数日間で全員の純粋な基礎戦闘力は見違えた。
(……オールマイトは絶対的なカリスマで、コッチはリーダー、って感じだな)
肩甲骨から丁寧に重量感のある指が、強張った筋肉をほぐし始めた。
足元から解されて血流が良くなったのか、体がじんわりと熱を持っている。
整体に通うことも無ければ、自分でやるストレッチも一般的なもの。
知識のある者が施術したら、こうも違うのか。
比較するには情報が少なすぎる気もするが、少なくとも言う事を聞いて良かった気分に轟はなっていた。
受け答えしつつ施術は進み、いつしかうつらうつら。
心地よい意識の中、ふとこの男と話す時は、気兼ねなく受け答えができる自分がいる事に気がつく。
緑谷や飯田に感じる信頼とは違う、親しさに似た不確かな安心感とでも言えばいいのか。
それは醸し出す空気なのか、ただ考える程に思うのは
「……あんたもお節介だな」
褒めているのか曖昧な轟の発言。
ハッハッハと背中越しに豪快に笑う声がして、寝転んだまま髪をグシャグシャとかき乱されると、上着を掛けて返された。
終了の合図。
少々寝ぼけ眼で起き上がると、肩は勿論、体が驚くほど楽になっていた。