第2章 白米ってうまいよねー
それは荒々しく爆豪勝己は廊下を歩いていた。
切島と上鳴と瀬呂範太と昼食をとった後「ジャン負けがジュース買いに行こうぜ!」と提案した上鳴達との勝負に負けた為であった。
意外と付き合いがいいのは彼の良い所である。
「買い殺してやっからさっさと教えろ!」と悪態をつく爆豪に対し、いつも酷い扱いを受けている上鳴は(ば、爆豪に命令できる……!!)とビビりながらも、少し遠い自販機のジュースを頼んだのであった。
「くっそッ、あんのアホ面覚えてやがれ。
……んだよ、ふるふるトロピカルレインボージュース(強炭酸)って」
周りに人もいないので、つい声に出てしまう。
それもそうだ。
変わった物しかない自販機は人気がない。
更に夏休み中ともあって、人の出入りはいつも以上に少なかった。
すれ違う生徒も居なくなると、爆豪は良い事を思いついた。
【買ったら渡す前に全力で振る】
そう思うと、さっきまでの怒りはどこへやら、機嫌良く自販機のある場所を曲がるのだった。
―――ドンッ!!
胸辺りに【何か】が衝突して目の前で転んだ。
一瞬の事で分からなかったが、それが謝ったのをみて多目的室にいた子供だと認識した。
(イチとか言ってたガキか……)
爆豪は不思議で仕方がなかった。
側に転がる缶をみて、子供が飲み物を買いに来たことは分かったが、何かが引っかかる。
自分でも分からない得体のしれない感覚は、目の前の子供を起こすのに時間を要した。
「……ちっ、さっさと立て」
右手を差し出し引き起こすと、イチは礼を言ってその手を取るとズボンの埃を払いながら缶を拾った。
「この国は暑いね。勝己もジュース買いに来たの?」
尋ねられたが、背中越しに聞こえる言葉を無視して爆豪は自販機にコインを入れた。
煩わしい事この上ないと言わんばかりの態度をとっていると
「……甘い香りがする。ふふっ、午後頑張ってね」
待っていても答えが返ってこないのを察したのか、そう言い残してイチは足早に駆けていった。
言葉の意味を察してイラッとしたが、怒鳴りつける相手はもういない。
個性であるニトログリセリンは、少しだけ甘く薫る。
汗をかきやすい夏は余計にだ。
「ちっ…」爆豪は上鳴のジュースを振りながら、教室へ戻るのだった。