第14章 虚しさは拭えない
「やっぱコッチのがいいよ」
瀬呂と同じくらい口角を上げて、満足気にイチは伸ばした両手を離した。
それからすぐ隣にいるエクトプラズムに「モクモクのもっかいやって!」と、ねだりだしていた。
彼を知る者ならまずそんな事しないが、そんな事はお構いなし。
見ている第三者をハラハラさせてしまうのは、イチの得意技なのだろうか。
一つの仮説を立てて、そんな様子を止めることも出来ず痛くもない頬を2、3度擦りながら瀬呂は妙な感覚に陥った。
ボヤけていた世界は曇り空を晴れ空が攫うかの様。
代わりにクリアな視界と、妙に冴えた頭に周りの賑やかな音を染み込ませるかの如く流れてきていた。
強いて言えばあと1つ。
喉に魚の骨が刺さってとれない。
耳が痒いのに良い所に辿り着けない。
鍵は合ってるのに、ドアがなかなか開かない。
そんな感じ。
(……なーんか、頭冴えてきてんなぁ)
と、そんな気分も束の間。
物騒な会話が舞い込んでくる。
「何か勝己怒ってるね」
「……怒ルモ何モ、貴公が先刻踏台ニシタカラデハ無イノカ」
簡単に言うとコチラに来る為に、爆豪の頭を踏み付けて来たという事。
これまた爆豪を知る者ならまずやらないであろう愚行。
いや、あのエクトプラズムにおんぶさせている位だから、この思考自体がナンセンスかもしれない。
自分のした事が原因なのだと気づくと「ゴメンねして来る!」そう言って必死に爆豪をなだめる(正確には八つ当たりされる)上鳴と峰田の元へイチは忙しく戻っていった。