第14章 虚しさは拭えない
なんて
センチメンタル気取って、自分らしくも無い。
でも、自分らしさって何だ?
溜めこんだモノを出す息を吐きだせない。
もどかしさが喉で立ち往生しているみたいだ。
「ダメ、ため息つくと幸せ逃げちゃうんだよ」
両頬をサンドイッチされた瀬呂の頭が、半ば無理やり上げられる。
いつの間にか遠目から見ていたイチが目の前に移動してきて、両手を伸ばしていた。
前のめりにされると鼻先スレスレの位置から瞳を覗き込まれて、瀬呂の喉はゴクリと鳴った。
これだけ近くで、まじまじと顔を見るのは初めてだ。
手合わせの最中は余裕も無く、普段イチがおんぶをせがむのは身体の大きい障子か佐藤。
整った顔立ちなのは分かってたが、幼いながらその容姿には若干凄みすら感じた。
(TSU……TSURA GA YOI〜 ……って、俺どんだけ卑屈になってんだよ)
いい加減、肥大してく思考を内省しないと。
未だ離れないイチの手を剥がそうと瀬呂の手が腕を掴む。
しかしその手は動かない。
それどころか顔が少し離れただけで、挟まれた頬は上へ下へなされるがまま揉みしだかれ、瀬呂を混乱させ続けた。
これが個性を使っているからなのかは定かでは無いが、どちらにしても体のサイズに反してイチは力がある。
本人は筋肉が付きづらいとボヤいていたが、最初の自主練で行った「腕相撲」では切島や緑谷といい勝負をしていた。
切島と緑谷と同等な時点で、あの華奢な体の何処にそんな力があるんだと愕然としたものだ。
「ふょ…ひょっと、ヒィチ?」
問いかけるにも酔っ払いみたいにしか喋れないうえに、イチは一向に止める気配を見せない。
良く見ると手を動かしながら少し薄めの唇が、「う」の形になってる。
その姿を見て、ふと3歳になる従兄弟が面白がって、顔を引っ張ったりしてきた事を瀬呂は思い出した。
とはいえ、流石に3歳児と比べるのはどうだろうか……。
いやいや、
先刻の爆豪とのやり取りと、朝食の時に緑谷が服のままイチが泳いでたと話していたな。
あながちこの例えは間違っていないという事か。
(引き剥がすの無理そうだし待つか……)
今度は無意識にため息が出そうになると、口の両端に親指がかけられ耳に向かって斜めに引っ張られる。