第1章 Chapter1【おいでませ、非日常】
黙々とプリンを食べる私達。
暫くして食べ終えたプリンを片付けるため立ち上がると、空になったプリンの容器をどこか物足りなさげに見つめる毛利さんが目に入る。
……そんなに美味しかったのかな、プリン。
「明日、仕事帰りに買ってきますね」
「……我の駒ならば、当然であろう」
私がそう言いながら毛利さんの手にある空のプリンの容器とスプーンを取れば、毛利さんは「フン」と鼻を鳴らしてそっぽを向いてしまった。
……これは、多めに買ってきた方がいいのかもしれない。
「他に何か欲しいものはありますか?」
「…………餅に書物ぞ」
「お餅と……書物、本ですか?」
「ああ、そうだ」
私がそう尋ねると、毛利さんは小さく頷いた。
うーん……お餅はいいとして、本はやっぱり私が選ぶより毛利さん自身で選んだ方が良いような……
「わかりました、ただ本は毛利さんが自分で選んだ方が満足する物が見つかると思うので……明後日、私と一緒に買い物に行きませんか?」
「構わぬ」
「ありがとうございます。じゃあ明日はお餅とプリンと、毛利さんが外に出るための服を買ってきますね」
「我の装備では外は歩けぬと?」
眉を寄せながら呟いた毛利さんに思わず苦笑いになった私。
歩けなくはないが、全身緑の服は多分……いや、確実に目立ってしまうだろう。
「はい、この世界では今私が来ているような格好が一般的ですね」
「……フン、その奇妙な着物か」
ちらりと私を見た毛利さん。
……私から見た毛利さんが変わった恰好なように、毛利さんから見たら私の方が変わった恰好になるんだ……難しいな、こういうのって……ん?
ふと、毛利さんと話しながら壁にかかった時計に違和感を覚えた私はじっと文字盤を見る。
文字盤の針は2時を指して…………2時!!?
「も、もうこんな時間!!?早く寝ないと、明日遅刻してしまうかもしれない……!!!!!??」
「……っ、耳障りな。急に大声を出すでないわ」
眉を寄せて不満そうな声を上げる毛利さん。
だって、2時なんて……休みの日でもこんな時間まで起きていたことはないのに!!
「と、とにかく寝ましょう!!毛利さんはそのソファーで寝てください!!毛布は持ってきますからっ!!!!」
ーーこれが、私の「非日常」の始まりでした。