第5章 Chapter5【福引券で運試し】
「毛利さん、名前です」
「入れ」
夕飯を食べ終えた私は毛利さんが待つ部屋へ向かい、扉を三回ほどノックしてから部屋の中へと入る。
「フン、遅かったではないか」
部屋の中に入れば、真っ先にパソコンの前へ設置されたリクライニングチェアに座る毛利さんと目が合った。
相変わらず怒っているようだけれど……そんなに怒らせるようなことをしましたっけ……?
「貴様のことだ。何故我が怒っているのかとでも思っているのだろうな」
「えっ、どうしてそれを?」
「顔に出ておるわ、阿呆めが」
「うぐっ……」
返す言葉が見つからない。
思わず言葉を詰まらせてしまった私に、毛利さんは心底呆れたように「未熟な駒ぞ」と呟いた。
……そういえば……
「あの、毛利さん。ずっと気になっていたのですが……駒とは一体……?」
毛利さんが私の家に現れてから、もう何度か分からないほどの「駒」宣言。
その意味を聞くに聞けず今に至るのだけれど、勇気を出して毛利さんに尋ねてみることにしたのだ。
「駒は駒ぞ。我が盤上で策に従い、忠実に動く兵のことよ」
「私、いつの間に毛利さんの兵に?」
「初日に降伏したであろう?故に貴様は我が駒よ」
さも当然と言わんばかりに毛利さんが言い放つ。
……言われてみれば殺されそうになったあの日、毛利さんに「命乞いか?」と聞かれるほど必死に敵意がないアピールをしたけど、でも……
「何ぞ、その不服そうな顔は」
「あ、いや、これは……」
「貴様は素直に喜ぶべきぞ。我の駒として動けることをな」
複雑な気持ちになっていたのが顔に出ていたらしい。
慌てて誤魔化すように笑えば、毛利さんは小さくため息をついた。
「……と、ところで話って何ですか?」
何微妙な空気になってしまったため、本来の目的を聞くことにした私。
すると毛利さんは私の前に右手を出し、人差し指と中指と薬指を立てて「三」を作りーー
「良いな、我は一度しか言わぬ」
「は、はい」
「ひとつ、我の駒だと言うことを忘れるでない。ふたつ、我にパソコンとやらを教えよ。そして……」
「そして?」
「みっつ、我の名だけ呼ばぬなど許さぬ。故に我を名で呼べ、名前よ」
ーーーーとんでもない爆弾を落としていきました。