第5章 Chapter5【福引券で運試し】
毛利さんの去った跡を呆然と見つめていると、不意にリビングの扉がゆっくりと音を立てて開いた。
「あれ?名前ちゃん?」
「……あ、佐助さん。ただいま」
どうやら扉を開けたのは佐助さんだったらしい。
割烹着姿の佐助さんがひょっこりと顔を覗かせながら、こちらを見つめている。
……割烹着姿が妙に様になっているなー、と思ってしまったのは内緒だ。
「おかえり、名前ちゃん。……ところでさ、さっきまで毛利の旦那もここに居なかった?」
「はい、居ましたよ。すぐに部屋へ行ってしまいましたが」
「……ふーん……」
最初はへらりと笑っていたが、毛利さんが居ないことを伝えた途端、佐助さんは何かを考えるような素振りをした。
その様子が気になり、私が声を掛けようとするとーー
「あの、佐助さーー」
「名前殿っ!!お帰りなさいませで御座る!!!!」
「痛っ!!!??」
ドタドタと元気すぎる足音と同時に、リビングから勢いよく幸村さんが飛び出してきた。
…………扉にいた佐助さんを、思いっきり押し退けて。
「ちょっと、旦那!?」
「名前殿!!某の拵えたりんごの飾り切り、如何だったでしょうか!!?」
涙目になった佐助さんが幸村さんへ必死に訴えかけるも、彼の意識は完全にお弁当のデザートとして入っていた飾り切りのりんごへ向いているらしい。
……ドンマイです、佐助さん……
「えっと……あれはやっぱり、幸村さんが用意したものだったのですね……?」
「うむっ!!某が作った、虎の飾り切りで御座る!!」
あの独特な形をした飾り切りは、虎の形だったようだ。
た、たしかに言われて見れば、虎に見えたような……見えなかったような……?
そう思いながら、どこか満足そうに笑う幸村さんに「ありがとうございます」と素直に感謝の言葉を述べた。
「旦那、感想を聞きたかったのは分かるけど俺様まじで痛かったんだからねー……?」
「ぐっ……さ、佐助、すまぬ……」
「まあ、いいけどさ……あっ、名前ちゃん。ご飯出来てるから早く手を洗って着替えておいで?」
「は、はい、分かりました」
……結局、佐助さんが先程何を考えていたのかを知ることは出来ませんでした。
まあ、でも……大したことじゃないよね、きっと。