第3章 Chapter3【お酒は飲んでも飲まれるな】
【Side:毛利】
「……なら……」
「……何ぞ」
不意に酩酊状態の駒が何か言いたげに口を開いた。
……どうせは下戸の発言ぞ、期待はしておらぬわ。
そう思いながら、駒の言葉を待つ。
「なら、奪い返せばいいじゃないですか」
「……………奪い返す、だと?」
ああ、やはり期待しないで正解であった。
戦の無い世で生まれ育った貴様には、それがどれだけ大変なことなのか分かっていないのであろうな。
呆れてものも言えぬとはまさにこのこと。
我がその呆れからため息を吐けば、駒はまるで酔いが醒めているかのような真剣な表情に変わった。
……ほう、良い表情をするではないか。
「毛利さんは言ってました、『そんなに大切なら奪い返せば良い』って」
「………………」
「普通に考えたら不可能なのかもしれませんが、毛利さんならきっと出来ると思います。……私のさくらんぼ、容易く奪いましたし」
「……最後の一言は余計ぞ」
最後の一言さえなければ、もう少しマシな……
いや、違うな。
あやつの言葉で、我の中にひとつの変化が訪れた。
……ほんの一瞬、「それも手かもしれぬ」と……何の根拠も確証も無しに思ってしまったのだ。
この、我が……毛利元就が、な。
「………………貴様、名前と言ったな。有能な駒には褒美をやろう」
「………………」
「そうだな……貴様は先程、我の部屋での月見酒を羨ましいと言ったであろう?ならばーーーー」
今は滅びているやもしれぬ中国を、再び我が手にした後に
見せてやろうぞ、特等席で。
……そう言おうとした直後、ある違和感を覚えた我は先程から黙り込んでいる駒の顔を覗き込んだ。
「……………………」
「…………………………」
やけに静かだと思ったが、よもや………
………このタイミングで、寝るだと…………?
「おい、起きぬか。何を寝ておる」
身体を揺すっても起きる気配のない駒。
いっそ、この盆で叩けば起きるであろうとも思ったが……我にも酔いが回ってきたのか否か、どうにも気が進まない。
「……計算していないぞ……」
さて、この駒……名前を、どうしてくれようか。