第3章 Chapter3【お酒は飲んでも飲まれるな】
ーー本屋さんでの買い物を終えた私達。
家に帰って夕食の支度をすれば、あっという間に陽は落ちて綺麗な月が登る夜へと変わりました。
私が夕飯の支度をしていた間、早速買ってきた本を読み始めたはずの毛利さんですが……
「……………………」
「……………………」
ちらりとキッチンから様子を見れば、毛利さんが眉間に皺を寄せながら複雑な表情で「日本三景」の本を読んでいるのが見える。
何か悩んでいるような、考え込んでいるような様子が五分、十分と続き……ついには夕食の支度が終わっても、毛利さんの表情は変わらない。
そんな毛利さんの様子が何だか少し気にはなりますが……いつも以上に近寄り難い雰囲気のため、声を掛けるのが極めて難しい状態。
「…………何ぞ」
ふと、私がじっと毛利さんを見つめていることに気づいたらしい。
顔を上げた毛利さんと、パチリと目が合った。
「あー……えっと、何だか毛利さんが悩んでいるように見えて……」
「………………」
「その……ご飯、出来たのですが……毛利さんは……」
「要らぬ、そのような気分ではない」
そう言って、毛利さんは再び視線を本へと戻した。
「……ですよね……」
予想通りの答えに、深いため息をつく私。
まあ、煮物とかご飯はラップをしておけば明日の朝なら大丈夫だろうし……そこはいいとして…………
「………………」
あの状態の毛利さんを放っておくのは何だか心苦しい。
せめて、毛利さんが悩んでいる内容を話してくれたら力になれるかもしれないのに……いや、きっと私には無理だろう。
あんなにも毛利さんが悩んでいるということは、恐らく彼の悩みは自分の居た世界に関してのことだ。
それを私に話したところで、解決なんて出来るわけがない。
……でも……話せば少しは気が楽になる時がある、よね?
あの様子だと毛利さんは私に話す気なんて全くないようだけれど、何かいい案は………………あ、そうだ。
「毛利さん」
「……今度は何ぞ、くだらぬ内容であれば即刻ーー」
「私と、月見酒をしませんか?」