第3章 Chapter3【お酒は飲んでも飲まれるな】
「……あ、あの、毛利さん……その本は…………」
「……………………」
本に向かって手を伸ばす毛利さんを私はやんわりと制しようとするも、構わず本を手に取って読み始めてしまった。
これは色々とまずいような気がする。
私の目の前にいる毛利さんはどう見てもネットの写真やその本の表紙に映る「毛利元就」とは違うが、それはあくまでも外見だけ。
性格やその一生が異なるとは限らない。
つまり、もしも自身の死因が何かわかって、それに対する対策を練ったとしたら歴史が変わってしまーー
「くだらぬ」
「っ痛!?」
突然頭にゴツッと何かが当たったため痛みに耐えながらも見上げれば、呆れたような表情の毛利さんが本の角を向けて見つめていた。
……もしかしなくても、この痛みは毛利さんの持つ本の角で叩かれたせいだろう。
「も、毛利さ……」
「我は我であり、この者は似て非なる者。あくまで参考に過ぎぬ。…………故に、そのような顔をするでないわ」
「……えっ……?毛利さん、それって……」
どうやら私は考え込むうちに、無意識に暗い表情をしてしまっていたらしい。
毛利さんの言葉を素直に受け取るなら、彼なりに私を慰めようとしてくれているのだろう。
……本の角は……正直、かなり痛かったけれども。
でも、それ以上に…………彼の不器用な気遣いに、胸の中が少し温かくなるのを感じた。
「ありがとうございます、毛利さん。毛利さんが毛利さんで安心しました」
「当然であろう?我はこの世に我しかおらぬ」
結局「毛利元就の一生」を買う気がなかった毛利さんだけれど、私を叩いた本をそのまま戻すのはあまり良くないため……
その後毛利さんが買いたそうに見ていた「日本三景」と書かれた本と一緒に、その本も買うことになりました。