第3章 Chapter3【お酒は飲んでも飲まれるな】
「……あの鉄の塊は何ぞ」
「あれは車です。操作は難しいですが、歩くよりも早く移動することが出来る乗り物ですね」
「空は飛べぬのか?」
「はい。今はまだ飛べないみたいですよ」
「…………つまりは、飛ばぬ本多忠勝か」
朝食の後片付けと洗濯物を終えた私は、約束通り毛利さんと買い物へ行くことにしました。
家の中だけでなく外の世界も毛利さんの知らないことばかりだったようで、信号や車などを見かける度に興味深そうに見つめている。
……車の話の最後に、毛利さんが妙に納得したような顔で人名のらしきものを呟いたのは首を傾げてしまったけれど。
「もうすぐ着きますよ、毛利さん」
「…………フン」
この様子だと電車とか遊園地も見たことないんだろうなーなんて思いながら歩くこと数分。
たどり着いたのは、こぢんまりとした古本屋さんである。
ショッピングモールでもいいかと思ったのだけれど、毛利さんが欲しそうな本って新しいものというよりはこういうところにあるような気がするんだよね。
「毛利さん、ここです。毛利さんが気になる本があればいいのですが…………」
私が本屋さんの扉を引いて開け、毛利さんへ中に入るよう促す。
……これが逆だったら、レディーファーストなんだけどね…………現実は女王様と召使いです……勿論、私が召使いで。
「……狭いな……」
狭い店内には端から端までずらっと並んだ大量の本棚。
その本棚同士の……人が通り抜けるための隙間には、立ち読みをする客が四方八方にいるためとても移動しにくい。
……そもそもあまりよろしくない行為だけれど……
特に狭い通路での立ち読みは駄目、絶対。
そう思いながら移動していると、不意に前を進む毛利さんの足が止まった。
本棚のとある一点をじっと見つめている。
「毛利さん、何か良い本がーーーー」
ゆっくりと毛利さんが見つめるその先にある本を見れば、そこに書かれていたタイトルに私は一瞬息が止まりそうになってしまった。
何故なら、そのタイトルは…………
「毛利元就の一生」だったのだから。