第2章 Chapter2【上司と私と】
私の上司、石田さん。
見た目はちょっと怖いけれど、仕事熱心で何よりも社長と会社のことを考えている人だ。
随分と前、まだ私が新入社員の頃に受けた指導は正直心が折れそうになるくらいスパルタなものだったが、アドバイスは的確だったし分かるまで教えてくれる凄い上司です。
……まあ、「何故だ!!何度言えば分かると言うのだ苗字は!!」ってこれでもかというくらい怒られたけれども。
「えっと……今度の会議で使う資料のチェックをしに…………?」
早起きしたから来ました、なんてことを言えば怒られるかもしれないと考えた私は咄嗟にそれっぽい理由を出してみる。
空いた時間で次の会議の資料に不備がないかチェックしたかったのは本当のことだから……許される嘘、だよね?
すると石田さんは「ほう」と興味深そうな声を漏らしながら自身のマグカップを手に取り、私の隣のデスクの前に置かれた椅子に腰を下ろーーーーえっ?
「あ、あの……石田さん?」
「なんだ、苗字」
「そこは島さんのデスクでは……?」
「向かい側よりもこちらの方が説明しやすいだろう」
「!!」
どうやら石田さんは、私の用意した資料を一緒に不備がないか見てくれようとしているらしい。
石田さんのせっかくの厚意を無下にするわけにはいかず、ほんのりと罪悪感を感じながら私は自分の椅子に腰掛け、資料を取り出す。
「これ、です」
「…………」
じっと、真剣な表情で資料を見る石田さん。
……うん、分かってはいたけど……近い。物凄く近い。
学生時代に教科書を忘れた隣の席の子に教科書を見せてあげた時以上に距離が近すぎる。
ましてや石田さんって自覚があるのかは分からないけど、かなりのイケメンだし……私も石田さんもその気は無いとはいえ、他の女性社員に見られたらと思うと………………
「?……苗字、私の顔に何かついているのか」
しまった、そんなことを考えているうちに無意識に石田さんを見つめていたらしい。
こちらをちらりと見る石田さんに慌てて「なんでもないです」と返せば、何事もなかったかのように視線が資料に戻った。
…………いけないいけない、ちゃんと仕事に集中しよう……