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とうらぶ 短編たち

第4章 藤 小狐丸


小狐丸に抱きしめられて、気付いた。
「これ、小狐丸の匂いだ」
彼が私の部屋に来た後、
しばらく私の部屋は少し甘い不思議な香りが残る。
朝目が覚めると消えているんだけど、
小狐丸の残り香。
かすかな甘い香りは私を安眠へと導いてくれるんだ。
それは、最近気づいた事実。

小狐丸の部屋に入った時に気付いた甘い匂いはコレだ。
でも、私の部屋に残る香りと違うのは
甘い匂いに彼自身の香りが混じっていたから。

小狐丸に抱きしめられながら
彼の着物に鼻を近づけると
「ぬしさま、」
少し困ったような声色で小狐丸は私を呼んだ。
「あ、ごめんなさい」
「いえ、ぬしさまはこの香がお好きなのですか?」
「うん。いい匂いだと思うよ」
「では、お香を分けて差し上げましょうか?」

「うーん、ちょっと違うかも」
「違う?」
「私が好きなのは小狐丸の匂いであって、
このお香の匂いじゃないんだよね、多分」
言ってしまって気が付いた。
なんて事を言っているんだ、私…!

「ぬしさまはこの毛並みよりも小狐丸の香がお好き、と」
「あ、いや、」
小狐丸はくふくふと笑いながら私を抱きしめる力を強めた。
「では、存分にお楽しみください」
ぎゅうぎゅうと抱きしめられて、
息を吸えば小狐丸の匂いがして。

温かいし、いい匂いだし、なんだか眠くなってきてしまう。

「ぬしさま」
「はい」
「おやすみなさいませ」

柔らかく耳元に言葉を降りかけられて
私はそのまま眠りに落ちた。


その翌日から、
小狐丸は風呂上がりに私の部屋へ来ると
「ぬしさまに毛並みを整えて頂きたく」
と、私に櫛を渡す。
私が髪を梳き終えると
「では、」
と、彼は私の布団を敷きその中へと横になった。
「ぬしさまを安眠に誘うのが
この小狐丸の役目です」
そう言って私が布団に入ると優しく抱きしめるのだった。

小狐丸との距離の保ち方についてはまだまだ模索中ではあるのだけれど、
まあ、良い方向に向かっているのだと、思いたい。


『ようこそ美しき未知の方』
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