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とうらぶ 短編たち

第12章 屈曲花 千子村正


「村正?」
「熱中症には気をつけまショウ」
「え?」
「春とは言え、暑いデスから」
「嗚呼、うん」

「脱ぎまショウか?」

会話に脈絡が無さ過ぎて、
いつもの言葉への返事が出て来ない。
「主?」
村正が私の顔を覗き込む。
自然と顔が近づいて、逆光の中でも表情が見えた。

返事の無い私に対して、不思議そうな顔の村正。

「熱中症なんて、知ってたんだね」
「一期一振が短刀たちに言っていマシタよ」
確かに。
一期一振は粟田口だけでなく短刀たちのお兄さんの役をしてくれている。
彼が短刀たちにそう言っていても不思議ではない。
ただ、その言葉を村正が言うと違和感があるだけ。

ぼんやりとそんな事を思っていれば
そっと頬に触れた冷たい指。
どうでもいい事を考えている内に
村正は私の横にしゃがみ込み
その手を私の頬に伸ばしていた。
「村正、」
「フム。熱はありまセンね」
予想もしなかった距離で、村正の瞳を見つめる。
「主」

「脱いだら、その先は何があるの?」
ぼーっとした思考の中で、
私はそんな事を村正に言っていて。
自分が何を口にしたのか理解した時、
村正は「huhuhuhu」といつもの笑い声を上げていた。
「知りたいデスか?主」
「嗚呼、いや、えーっと、」
目を白黒させる私の頬を両手で包み込んだ村正。
気付くとその顔はもっと近づいていて、

ちゅっ

と、甘い音がして唇が触れて離れた。
「脱ぎあいまショウ?主。
夜が楽しみデス」

huhuhuhuhuhuhuhu
いつもの笑い声だけど、
いつもより声量が大きい気がする村正の背中を見つめる。
私に背を向けて廊下を歩いていく村正の
兎の尻尾の様なあの飾りが機嫌良さ気に揺れていた。


『甘い誘惑』
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