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とうらぶ 短編たち

第4章 藤 小狐丸


普通に考えたらいいチャンスなのかもしれない。
髪を梳かしている間に会話でもすれば
彼の事を少しずつでも知っていけるだろう。
けど、いざ二人っきりになると何を話していいのか困る。
小狐丸も黙ったままだし。

だから毎回
彼の髪を梳かす時間は無言で
私は心の中で一刻も早くこの時間が終われと念じながら
彼の髪を梳くのだった。


今日も今日とて、無事にお仕事終了。
夕刻になって、そろそろ夕飯の時間だ。
もう少しすれば秋田君とか小夜ちゃんとか
短刀の誰かが私を呼びに来てくれるだろう。

仕事が無事に終わった開放感からグッと伸びをして
空を見上げれば程よい夕焼け。
春の頃、
日が長くなっている事をしみじみと感じていたら

「ぬしさま」
小狐丸がやって来た。

「夕飯?」
短刀の代わりに彼が呼びに来てくれたのかと思えば
「夕餉にはまだしばらく時間がかかります」
との事。

小狐丸は音もたてずに私の横へやって来ると
並ぶようにして座る。

「ぬしさま」
改まって呼ばれると居心地が悪い。
「なんでしょう…?」

「ぬしさまは、私がお嫌いですか?」
「いや、そんな事はないですけど」
「しかし、
ぬしさまは私を避けていらっしゃる」
「そうですか…?」
あからさまに避けたりするような事はしていないつもりだけど…。

「では、今宵私の部屋へ来ていただけますか?
風呂上がりにお待ちしています」

小狐丸は言う事だけ言って
また音も無く立ち上がるとスタスタとどこかへ行ってしまった。

…部屋に来いって言われた…
私の頭の中はその事で一杯になってしまって。
小夜ちゃんが夕飯の時間だと呼びに来てくれるまで
その場から動く事ができなかった。

わいわいと夕飯を本丸のみんなと食べ、
風呂に入る。
普段ならば一番リラックスしているハズの時間なのに
風呂の中でさえ、小狐丸に部屋に呼ばれた事が頭を支配して落ち着けなかった。

逃げ場も無いので、重い足で小狐丸の部屋へと向かう。
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