• テキストサイズ

とうらぶ 短編たち

第11章 仙人掌 蜻蛉切


「花子様、
貴方の願いは、自分には叶えられないものでしょうか?」
「え!?」
静かな声で蜻蛉切が言った。
私に聞くと言うよりも、独り言に近い感じ。
それでも、確実に私に届いたその言葉に
私は動揺して、夜中なのに大きな声を上げてしまった。

閉じない口を両手で押さえて、
視線を空から横に居る蜻蛉切に向けると
彼も私を見ていた。

真っすぐすぎる視線とぶつかる。

「あー、えーと、うーん…」
どうやって答えよう?
私のくだらないお願いを、彼に、
蜻蛉切に伝えるのは、なんだか、恥ずかしい。

この願いを叶えられるのは、他の誰でもない
蜻蛉切だけ。
でも、
本人に伝えるのは違う気がする。
流れ星に願って、
心に秘めておくくらいで丁度良い願いだから。

「花子様?」
空に向けていた視線を下に落とした私に
「言い難い事ならば、無理には聞きません」
蜻蛉切は優しく言ってくれる。
「流れ星が流れたら、
花子様の願いが叶うように自分も星に祈ります」

なんだか、一気に寒くなった気がする。
両腕をさすりながら、蜻蛉切になんて伝えようか考える。
嘘を伝えるつもりは無い。
でも、何も伝えないで居るのは違う気がする。
素直に彼に言ってしまえれば、良いのかもしれないけれど…。

返事ができないまま、視線を空に向けると
スーっと星が流れた。
「「あ!」」
意図せずに重なった声。
一瞬で消えた流れ星。
瞬きする間も無いまま、流れ星は流れて消えた。

動けないまま、パチパチと瞬きを数回。
「願い事は、出来ましたか?」
蜻蛉切に聞かれて
「できなかった…」
こたえた声は、自分が思うよりも小さかった。
「一瞬でしたな。
自分も、何も願えませんでした」
すみません。と私に頭を下げる蜻蛉切に
「私も出来なかったから、お互い様だよ」
その頭を上げさせる事に必死になる私。

「花子様、明日の夜も流れ星を探しますか?」
その言葉に私は首を横に振った。
/ 31ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp