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とうらぶ 短編たち

第11章 仙人掌 蜻蛉切


「花子様、寒くはありませんか?」
夜空に浮かぶ星たちから目を離さない私に
蜻蛉切は優しい声で聞いた。

昼間だと夏なんじゃないかって程に暑い日があるけど
まだまだ夜は冷える。
そんな春の夜。と言うか夜中。
この本丸で起きているのは私と蜻蛉切だけだろう。

今日の近侍を務めてくれていた蜻蛉切。
日中の執務の最中にウトウトとしていた私を見て
私の寝不足に気付いた蜻蛉切に
流れ星探しをしているのだと打ち明けた。
今日で3度目のチャレンジ。

寝不足は体に良くないと、しっかり休むように言われたけど
3度目の正直に期待してた私は
今日で最後にする、と蜻蛉切に頼み込んだ。
すると、
「流れ星探しに自分も同席する」と蜻蛉切が言い出し
今に至っている。

春に流れ星探しと言うのは無謀なのかもしれない。
なんとなく、そう思う。
だって、天体観測って多分冬にするよね?
あれ、夏だっけ…?
とにかく、星に詳しい訳でもない私が
流れ星を見つけるのってなかなか無謀な気がしている。
これは、流れ星を探したいと徹夜をした初日から思ってた事だけど。

有難い事に、3日連続で良い天気。
雲一つなく、星はキラキラ輝いている。
でも、流れ星はゼロ。

「流れないねぇ」
「そうですな」

蜻蛉切との間に会話はそれ以上無く、
私は変わらず空を見上げ続ける。

「花子様」
蜻蛉切が私の事を名前で呼ぶのは決まって二人きりの時。
いつからそう呼ばれるようになったのか、
しっかりと覚えていないのだけれど。
優しい声で呼ばれる自分の名前が嬉しかった。
まるで特別なモノの様な気がして。
蜻蛉切の中で特別で居られている様な気がして。

「花子様、」
視線は空に向けたまま、
頭の中で響かせていた蜻蛉切の声が横から聞こえて
一瞬で思考が現実に戻る。
「あ、何?」
「何故、そこまでして流れ星に拘るのですか?」
優しく私に問う声に、私の心も素直になる。
「お願い事をしたくて」
「願い事…」

少しだけ、ほんの少しだけ肌寒くて
両手で肩をさする。
視線は変わらず空へ。
綺麗な星たちは、流れる気配ナシ。
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